大ヒットしたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の片渕須直監督(61)が、NHKのドキュメンタリー番組で、無断で自分の映像を使われたとツイッターで抗議していたが、NHKは、行き違いがあったとして片渕監督に謝罪した。
片渕監督は、NHKが作品をよく理解していないと、出演を断っていたという。NHKの広報局は、映画の担当者に映像使用を要望していたが、監督に伝わっていなかったと取材に説明している。
片渕監督が写った写真や呉市のことを語る映像を使う
NHK・BSプレミアムの番組「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」では2022年3月15日夜、漫画家こうの史代さんの原作「この世界の片隅に」について特集した。
「『この世界の片隅に』~戦後世代が描く戦争~」と題して、広島出身のこうのさんが新たな戦争表現の可能性を切り開いたとして、戦後世代が描く戦争漫画について、こうのさんや他の漫画家らに語ってもらった。番組サイトでは、「戦争の悲惨さを描くよりも、戦時下でもひたむきに生きる女性や家族、隣人たちの日常を見つめた異色の作品だ」と紹介している。
番組を見ると、冒頭では、映画公開の舞台あいさつに片渕監督らが登壇した姿がまず流れた。その後、こうのさんがこの漫画を描くまでの経緯を説明し、続いて、映画製作の舞台裏についての紹介があった。
そこでは、映画は地味な内容でヒットしないと資金がなかなか集まらなかったが、片渕監督は、4年かけて熱心に地元の広島県呉市に通い続けたとした。その姿に感銘を受けた地元の人たちが片渕監督を空襲現場などに案内し、映画のPRにも奔走したことも紹介した。
その中で、片渕監督が写った写真や呉市のことを語る映像などが使われている。
そして、2015年のクラウドファンディングで4000万円近くの資金が集まり、映画化が大きく前進したとしていた。
これに対し、片渕監督は17日にツイッターを更新し、直接番組は見なかったものの、自分の映像が使われていたと聞いてがく然としたと明かした。
24日朝の再放送は、「説明不足があったため見送る」
片渕監督によると、「事前にこちらに打診された構成案が『よく理解されていないな』と思わせるものだったので、映画側全体として出演しないことにした」という。それにもかかわらず、片渕監督に一切確認せずに、NHKは自分の映像を使っていたという。
「もし番組内で片渕の見解のようなものが何らかの形で語られていたとしても、こちらでは何の確認もしていませんので、それはこちらの見解ではない、というしかありません」
そのうえで、NHKに対し、「自分たちの語りたいことを語るという目的のために自分以外の存在への配慮をはしない、という態度は改められるべきと思います」(原文ママ)と苦言を呈した。
なお、冒頭などで使われた舞台あいさつについては、「公開された取材の場でしたので、そこで撮られた映像には問題ありません」とした。
その後、片渕監督は、これらのツイートをすべて削除し、3月18日に次のように報告した。
「放送局の番組担当の方々と話をすることができ、誠意ある対応をしていただけることになりましたので、関係あるツィートは消去しました。お騒がせしました」
片渕監督が抗議していたことについて、NHKの広報局は3月22日、J-CASTニュースの取材にこうコメントした。
「取材制作の詳細は控えますが、番組の制作担当者は、映画の製作委員会の担当者に、NHKが過去に片渕監督を取材した際の映像を使用したいとの要望をお伝えしていました。しかし、説明不足や行き違いで片渕監督ご本人に伝わっておらず、放送後、片渕監督におわびしました。あらためて番組関係者への説明や連絡などを丁寧に進めてまいります」
この番組は、24日朝に再放送を予定していたが、「再放送については、映像の使用に際し、説明不足があったことを踏まえ見送ることとしました」と明かした。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)