三重県伊勢市内の勢田川の支流で、住民有志のグループがコイ約200匹を放流したと地元テレビ局が報じ、専門家らから懸念の声が出ている。
放流で生態系を乱してしまうという理由からだ。伊勢市の環境課は、どんなコイなのかなど事情はまだ聴けていないとしたうえで、「外来種の持ち込みならよくありません」と取材に答えた。
「コイの放流なら、遺伝子かく乱もありえます」
報道によると、この川では、宅地開発による生活排水の影響でコイやフナなどが激減したが、最近は、下水の普及による水質改善が進んだ。そこで、川の浄化などに取り組むグループが、昔の川を取り戻そうと、町内会や地元企業などの人たちも参加して約30人で、2022年3月13日にコイの稚魚約200匹を川に放流した。
現場の川は、住宅地を流れるコンクリートで囲まれた排水路になっている。
複数の地元テレビ局がこの日に、その様子を撮った映像を流している。それを見ると、黄色いジャンバーを着た参加者らがコンクリートの堤防のそばから、企業の名前が入ったバケツを使って稚魚を一斉に川に流し、白っぽい色や赤い斑点もあるコイが群れを成して川を泳ぎ始めていた。
このニュースがウェブ版でも流れると、コメント欄などでは、「これは逆に生態系を崩してしまう」「専門家の意見を取り入れて欲しい」といった懸念の声が相次いだ。過去にも、同様なケースが度々騒ぎになっていたからだ。魚類などの専門家からも、在来種を捕食して減らしたり川底の泥をまき散らして水を濁らせたり、むしろ逆効果になるなどとツイッター上で指摘があった。
伊勢市の環境課は16日、J-CASTニュースの取材に対し、「市は放流事業の運営には関わっていない」としたうえで、コイの放流についてこう話した。
「このグループからまだ話を聞けておらず、どこからどんなコイを持ち込んだのかは分かりません。外来種の持ち込みなら、生物多様性の観点からよくないと考えています。コイの放流なら、遺伝子かく乱もありえます」
ただ、コイは、特定外来生物ではないため、放流に法的な許可は必要ないとしている。
国の補助金を受けているが、「使っていないと口頭で確認」
伊勢市の環境課では、3月16日朝に現場の川を見に行ったが、稚魚の姿は確認できなかったという。稚魚の回収は考えていないとしている。
同市の農林水産課が16日の取材に答えたところによると、コイを放流したグループは、地域の共同活動を支援する農水省の多面的機能支払交付金事業から補助金を受けている。
三重県の外郭団体である同県土地改良事業団体連合会がこの事業の事務局をしており、そのサイトでグループの活動が紹介されていた。
それによると、このグループは、17年10月作成の紹介文で、地域のお祭り行事の一環として、子供たちと共にニシキゴイ200匹を今回と同じ川に放流し、その後のコイの世話や成長観察を続けているとしていた。
放流について、市の農林水産課は、次のように説明した。
「いつから放流しているのかは分かりませんが、生態系への影響が分かっていたら、そんなことはしなかったと思います。コイの放流については、国の交付金を投入していないとグループ側に口頭では確認しました」
ただ、放流は、グループの活動の一環として行ったと認識しているとした。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)