名古屋・栄を拠点にするSKE48が、2022年3月9日に半年ぶりの新曲「心にFlower」を発売した。最年少の林美澪(はやし・みれい)さん(13)が、前作「あの頃の君を見つけた」(21年9月発売)に続いてセンターポジションを担う。
松井珠理奈さん(25=21年卒業)や松井玲奈さん(30=15年卒業)との「ダブル松井」によるダブルセンターを除けば、同じメンバーがシングル表題曲のセンター連続して担当するのは珍しい。林さん、熊崎晴香さん(24)、グループ最年長の須田亜香里さん(30)の3人に、新曲に向けた意気込みを聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)
SNSで「悪意の礫」ぶつけられたら...?
―― 表題曲「心にFlower」は、「騒々しい日々の中で、花のように美しく清らかな心と、自分らしさを忘れずに生きていこうという、心が浄化されるようなメッセージソング」だと聞きました。聴きどころ、新曲に込められた思いを聞かせてください。
熊崎: 恋愛ソングではなくて、メッセージ性のある歌詞ということにとても驚きました。いろいろな方に「刺さる」歌詞が多いと思います。寄り添っているような内容もたくさんあります。SNS(で否定的な書き込みを見た時)だったり、ちょっと落ち込んでしまう時期だったりとか、そういうときに聴くと背中を押してくれるような歌です。
林: すごく「SKE48に合っているな」と思いました。最近自分がすごくつらいこともたくさんあって、そんな時に聞くと「すごくいい曲だな」と思います。私と同じ世代の子が聴いても「刺さる」ものがあると思います。中学生は思春期で悩みやすい時期ですが、この曲を聴いて元気になってもらえたらすごく嬉しいです。いろいろな世代の方に聴いていただいて、広まっていけば嬉しいなと思います。
須田: 美澪は「中学生は」と話しますが、大人の私にとっても響く歌詞です。どこが響くかは人によって違うかもしれませんが、本当に日常の小さな悩みだったり大きな悩みだったり、全ての誰かのどこかの瞬間に当てはまる魔法の言葉が隠れている曲です。
―― 「ビルの隙間には(青空が見える)」「清らかな気持ちを忘れないで」といったあたり、厳しい状況でも望みを捨てないように呼びかけているような歌詞が印象的です。「悪意の礫(つぶて)に傷つこうとも」というあたりはなかなか強い言葉ですね。
須田: ミュージックビデオ(MV)では、戦車や銃といった、戦うために使うものが全て花で包まれる、という世界観が表現されています。私たちも銃を撃ったりしますが、そこから出てくるのは銃弾ではなく、花です。歌詞には「闘うことなく 受け入れること」とあります。心に余裕がなくなったり、人に優しくなれなかったりする人も多いこの世の中だからこそ気付きがあるし、意見が違う人とも戦わずして分かり合ったり交わったりすることができる、という温かい可能性を感じます。
―― 林さんは「最近自分がすごくつらいこともたくさんあって...」と話していましたが、歌詞にあるような「悪意の礫」に傷つけられそうになったとき、皆さんはどう乗り越えていますか。皆さんのようなアイドルという職業では、SNSに接することが避けられませんね。
須田: 昔は全部まともに受けて「全部自分が悪いんだ」と思って自分を責めて落ち込んでしまいましたが、最近はあまり気にしなくなりました。一通り傷つくという経験もした上で、今は自分に必要なものを参考情報として取り入れる、といったところです。悪意がある言葉や、不覚にも傷ついてしまう言葉とか、世の中にはいろいろ転がっているので、「そう思う人もいるんだ」という気持ちで聞くことが多いですね。
熊崎: 私は本当はポジティブに考えるタイプなのですが、この仕事をしているとパニックになってしまったり、あたふたしてしまったりすることがたくさんあります。歌詞に「深呼吸を一度して 見回してごらん」とあります。家族からも「そういうときこそ1回落ち着いて深呼吸をするといいよ」と言われています。思い詰めて暗くなってしまうときもありますが、とにかく深呼吸をして「他にもいろんな世界はあるから、ここで思い詰めなくていいや。もっともっと視野を広くすればいいんだ」と考えるようにしています。
林: 亜香里さん(須田さん)が言っていたように、あまり自分が必要ではないと思うものは取り入れないようにしています。周りからの言葉も、成長していくには大切なので、取り入れたりはするんですけど...。私はあんまり気にせずに生きているので...何だろう。そんなに思い詰めたことはないですね。
須田: 悪意のある言葉などが愛の中から出てきた言葉なのかどうかを見極めるのは、意外と大事だと、仕事をしている上では思います。
「強い自分」が「弱い自分」を助けるために戦う
―― MVは、栃木県内で撮影したと聞きました。メイキング動画を拝見しましたが(編注:取材時はMV完成前だった)、林さん、おりの中に閉じ込められていましたね。
林: 弱い自分と強い自分がいて、強い自分が弱い自分を助けるために戦っている、というのがコンセプトです。おりの中に入っている「弱い自分」が助けを求めて、「強い自分」がアクションをして自分を取り返す、といったストーリーです。撮影現場の寒さで息も白くなって、本当に「助けて!」という感じが一層強くなって、とてもいい感じに仕上がりました。
―― 寒さ以外に苦労したことはありますか。
林: ダンスも結構激しくて大変でした。
須田: ダンス大変でした。
―― 振付は、大阪府立登美丘高校の「バブリーダンス」で知られるakaneさんが担当しました。
熊崎: 今まで筋肉痛になったことがないところが痛くなるくらい、本当に休むところなんてどこにもない、それぐらい激しいダンスです。とにかく動きが速くて、最初は「理解はしていても体が追いつかない」状態でした。ですが、みんなしっかり覚えて撮影し、全体の映像を見ると、全員が広がって花のように咲いているような動きが本当に美しかったです。見ていてうれしくなりました。
―― 激しい中にも妖精のような動きを...といったところでしょうか。
熊崎: 本当に美しい振り付けなので、指の先まで気を使って踊らないと台無しになってしまいます。先生がグループに分かれて動きを合わせるように指導してくださったり、みんなで話し合って揃えたりすることもできたので、すごく勉強になりました。少しバレエのようなところもありますね。
須田: バレエのような伸びやかな振り付けもあるので、そういう繊細な動きにも注目していただきたいです。普段、バリバリ元気に踊っていることが多いSKE48で、繊細でラインが綺麗に見えるような動きには慣れてないメンバーが多いので、そこの見せ方は苦労しました。
林: 私は「がつがつ踊る系」がすごく好きで、どちらかと言えば激しい踊りが自分には合っていると思っています。今回の曲は綺麗な部分もあれば、激しい部分もあって、いろいろなダンスが組み合わさっているので苦労しました。でも、いろいろなバリエーションのダンスができて楽しかったです。
―― 今回のダンスは「『でら』フラワーダンス」だそうですね。手を花のように回転させる「デフラワー」という技と、名古屋弁で「すごい」を意味する「でら」をかけたとか...。
林: (動きを見せながら)めっちゃ難しいんです、これ。クラスの子に教えたんですけど、本当に結構難しくて大変でしたね。
須田: 私、できてるかわからない...(苦笑)
―― 須田さんはメイキング動画で「30(歳)なので正直、めちゃくちゃしんどい」と話していましたね。
須田: すごく体力的にもしんどくて、最初のレッスンが終わった後、涙が出るほど体が痛くて...。もうみんなについていくには、こんなにも体が痛い思いをしないとSKE48でいられないんだと思ったら、すごくやるせなかったです。それくらい本当に激しいダンスです。みんなで食らいついていきましたね。「SKE48に合っているダンス」というよりは「SKE48を、もう1段階上のステージに連れていってもらうためのダンス」、作品だと思います。
―― まだまだ頑張れる感じですね。
須田: はい。運命に身を任せて、私はやれることをやるだけです。
―― MVでは、殺陣のようなアクションシーンが印象的です。
林: 私はソロでやらせていただきました。休憩を挟みながら3時間やっていましたが、本当に腕が筋肉痛になっちゃって...。銃もかなり重くて、それで敵を殴るシーンでは申し訳ない気持ちになりました。緩めにやっていたら「もっと強く」と言われて、「ごめんなさいっ!」という気持ちでケツバットしてました。(笑)
熊崎: 私は銃を持って、とにかく襲い掛かってくる敵をバッサバッサと倒し、最終的に体を反って「マトリックス」のように乱射する役でした。
―― 須田さんは軟体を生かしてハイキックをしたと聞きました。
須田: 元々は私アクションシーンをやる予定はありませんでしたが、撮影当日に「やっぱりやろうか」と言われて...。「体の柔らかさを生かした回し蹴りやってみよう」となって、その時点では、その1シーンだけだったのですが、「こんなに足上がるんだったら...」と、さらに技が追加されました。新境地を開いていただいた撮影でした。みんなMVではバリバリ戦っていますが、アクションシーンは未経験の子が多いので、それでもここまでできている、というところは注目していただきたいです。普段の激しいダンスで身体能力があるからこそ、だと思います。
比較される松井珠理奈は「幻の人」「遠い存在」
―― 林さんは2回目のセンターです。林さんは1月に研究生から正規メンバーに昇格し、2月3日の配信番組では「さらにパワーアップした姿をお見せできるように頑張りたいと思うし、(研究生として臨んだ)1回目(のセンター)と同じじゃダメだという気持ちが自分にもある」と話していました。研究生と正規メンバーでは、やはり違いますか。
林: 正直、研究生のときは少しモヤモヤしてたり不安だったり、本当に「(センターが)研究生で大丈夫なのか」という気持ちがありました。今回は正規メンバーとして立たせていただけるということで、心がすっきりしたというか、嬉しい気持ちですね。やはり研究生と正規メンバーって差があるので、正規メンバーとしてもっと頑張らないとな、と思いました。
―― 研究生は正規メンバーに昇格すると髪型の自由度が増す、とは聞いたことがあります。他にはどんな違いがありますか。
須田: 何だろうなあ。立てるステージの数は全然違うかもしれないですね。
林: 公演とか、先輩方と出るのが少なくないですか?研究生は「研究生公演」に出るので。
須田: コロナ禍もあって、先輩と研究生の距離が結構あったんですよね、多分。今までは先輩は先輩で活動するし、メンバーが足りなくなったときにサポートで入るのが研究生でした。そういう面で関わりがありましたが、ここ数年は、研究生と正規メンバーとではっきり分かれていると思います。
林: アンダー(代役としてステージに立つこと)も最近やっと入ってきたという感じだったので、研究生だと、あまり(正規メンバーと)関わる機会とかないかな、という感じですね。
―― 今回は29作目で、これまでどんなメンバーが作品のセンターを務めたかを調べました。前作「あの頃の君を見つけた」までの28作品のうち、最も回数が多かったのは松井珠理奈さん(25=21年卒業)単独で13回。次に多かったのが松井玲奈さん(30=15年卒業)との「ダブル松井」によるダブルセンターの8回でした。その次に多かったのが小畑優奈さん(20=19年卒業)。「意外にマンゴー」(17年7月発売)、「無意識の色」(18年1月発売)の2作連続でセンターを務めました。松井珠理奈さんを除けば、同一人物が連続してセンターを務めるのは小畑さん以来で、4年2か月ぶりです。林さんの抜擢を見て、11歳でデビューした珠理奈さんを想起する、林さんと重ねるファンもいます。珠理奈さんを目指したい、という思いはありますか。林さんにとって、珠理奈さんはどんな存在ですか。
林: そうですね...。会ったこともお話したことも一緒にステージに立たせてもらったこともありますが、やっぱり「幻の人」というイメージが私にはありますね。光輝いているオーラが「ほわーっ」という感じで...。なので、やっぱり私にはちょっと遠い存在ですね。
―― 着実にSKE48のメンバーとして頑張っていきたい、ということですね。
林: 私はあまり気にしないというか、そういうことに対してひどいことを言われたりしても、そこまで気にしないタイプなので、このまま頑張っていきたいと思います。
―― 先輩から見て、林さんの2回目のセンター、成長ぶりをどうみますか。
須田: アイドルでセンターに抜擢されるというのは、メンタルも強く保てないと難しかったり苦労したりする面も多いです。それはさておき、美澪はプロとしてステージに立って良いパフォーマンスをしてくれる、という信頼感がありますね。美澪がセンターに立っていることで安心するので、すごくやりやすいし、いいSKE48が見せられているのだろうな、とう自信が湧いてきます。
熊崎: もちろん1作目も頼もしくてしっかりしていましたが、2作目は距離が縮まったのか、不安なことも口に出してくれるようになりました。美澪もいろいろ思うこともあると思いますが、それに落ち込まずに前向きに頑張っている姿を見ていて、私達メンバーもすごくパワーをもらえています。美澪自身がステージに立つことをすごく楽しんでいるのはファンの皆様にも伝わっていると思うので、これからも美澪らしい自分だけのカラーを出して、堂々と自信を持ってほしいと思います。
名古屋ソロライブ中止で「このまま終わると寂しい思いするファンも」
―― ところで、須田さんは21年11月22日に東京・渋谷で開いた初めてのソロライブで、卒業に対する葛藤を
「私の中で『けじめとなる日』を意識しながら準備をしてきた分、だから余計泣いちゃったんだろうね、きっと。『卒業しなきゃ』という思いと、『できないな』という思いと、ぐちゃぐちゃになっている『30歳リアル』です」
と、涙ながらに話していました。1月29日に予定されていた名古屋でのソロライブは須田さんのコロナ感染で中止になってしまいましたが、仮に開催されていれば、さらに重大な発言があるのではないかとドキドキしていました。実際のところは、いかがですか。
須田: 名古屋のライブは配信をする予定がなく、その場にいる100何人しか情報を知らないことになるので、重大な発表をしたらおかしなことになってしまいます。なので、それは絶対ありえませんでした。渋谷でのソロライブは、新たな挑戦でギターを始めて、ギターを持って歌っている姿を初めて見せるというライブでした。グループにいると、一つのライブで自分の声だけ聞かせるという経験は実は多くないので、ソロライブは憧れで、いつか叶えてみたいと思っていました。初めは緊張しましたが、歌うことを素直に楽しめたのがギターを持って歌ったときだな、と思いました。2回目の名古屋のライブでは、楽しいという私の姿をもっともっと見せて、聞いているだけでちょっと体を揺らしたくなるような、楽しい空間が作れたらいいな、ということを目標に準備をしていました。
―― 中止になってしまいましたが、また別の形で何かできたらいいですよね。
須田: そうですね...。このまま終わると、もしかしたらちょっと寂しい思いをするファンの方も多いと思うので、またできるように頑張れたらいいなぁと思います。ギターは私の趣味なので、これからも勝手に練習して勝手に楽しんでいけたらいいな、って。その延長線上に、ファンの方に見ていただく日があれば嬉しいです。
―― 21年8月のインタビューでは、卒業は「いろいろなことが円滑になってから」と話していました。「欲を言えば握手会もしたいです。ライブも(今は禁止されている)みんなのコールが聞きたいな、というのもあります」とも。もうしばらくはグループのメンバーとして活躍するということですね。
須田: 私は手を抜くのは苦手なタイプなので、いるからには、精一杯SKE48を愛したいし、いる意味を持って、やりたいなとは思っています。
―― 11期生の募集が締め切られ、オーディションの審査が進んでいます。林さんにとって初めての後輩になりますが、「こういう子に入ってほしい」「こういう子が向いている」といったことはありますか。
林: 私も初めて後輩ができるんですよ...! 私は事前にSKE48のことをあまり知らなくて入ったのですが、ある程度「こういう感じなのかな」とは思っていました。予想以上に厳しいことも楽しいことも多いので、本当に心から楽しめる子が入ってきてくれれば、という気持ちですね。楽しんでやらないとアイドルってなかなか続かないものだと思うので、楽しんで活動してくれたらいいなと思います。
須田: 新しく入ってきてくれる子も、今いる子もそうですが、アイドルになると周りにかわいい子がたくさんいたりして、自分に自信をなくしちゃう子がすごく多いんですよね。アイドルになる前は夢を見ていたのに、なったら「私なんて...」と引っ込んじゃったりとか、「夢を見るなんておこがましい」みたいに思っちゃう子が出てくるのがすごくもったいないと思っています。そういう子が自信を持ってアイドルを楽しみ尽くしてくれるような環境を作りたいです。かわいい衣装を着るとか、ファンの方と楽しい時間を過ごすとか、アイドルでしかできないことは多いので、それをたくさん楽しめる環境作りは意識して伝えていきたいです。こんなに長くアイドルを続けられてるのも、アイドルの楽しみ方が分かったからだと思うので、後輩たちに受け継いでいけたらと思っています。
熊崎: 22年1月に「SKE48の未完全TV」(テレビ愛知)という番組が始まって、そこでオーディションの密着映像を見させていただきました。とにかく夢に向かって頑張っている姿は本当に輝いていて、何か一つを頑張れること自体が本当にすごいことだと改めて実感しました。密着された子たち以外にも、夢を持って入ってくる子が多くいると思います。とにかく2人が言ったように楽しむ気持ちと、自分を信じて自信を持って突き進む。その力があれば、アイドルとして輝いていけるんじゃないかなと思うので、そんな後輩ができるのを楽しみにしています。
林美澪さん プロフィール
はやし・みれい 2009年生まれ、愛知県出身。19年に10期生としてSKE48に加入。AKB48グループ最年少(22年3月時点)。前作「あの頃の君を見つけた」で、研究生ながら初めて選抜メンバー、センターポジションに抜擢される。22年1月に正規メンバーに昇格。今作「心にFlower」で2回目のセンターを務める。
須田亜香里さん プロフィール
すだ・あかり 1991年生まれ。愛知県出身。2009年にSKE48に3期生として加入。チームEのメンバーで同チームのリーダーを務める。4枚目のシングル「1!2!3!4! ヨロシク!」(10年)以降の全シングル表題曲に参加。AKB48のシングル表題曲にも通算18作品参加した。18年の「AKB48 53rdシングル 世界選抜総選挙」では2位にランクイン。
熊崎晴香さん プロフィール
くまざき・はるか 1997年生まれ、愛知県出身。12年に6期生としてSKE48に加入。15枚目のシングル「不器用太陽」(14年)で初選抜。19枚目の「チキンLINE」(16年)以降の全シングル表題曲に参加している。趣味のひとつが競馬で、19年からコラム「ハルカ 伸るか! 反るか!」(東京スポーツ)を連載している。