「車いすお断り」物件探しで門前払い 「本当に苦労した」手足3本失った僕が直面した現実

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   20歳の時に事故で右手と両足を失った山田千紘さん(30)は、8年前に1人暮らしを始めるにあたって物件探しをした時、大きな苦労に直面した。「家で車いすを使う」と伝えると、断られたことが複数回あったという。もともと選択肢が少ない中、問い合わせても門前払いされてしまう現実に「変わってほしい」と願う。物件探しの実体験を、山田さんが語った。

   【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)

  • 山田千紘さん。自宅の床にはタイルカーペットを敷いている
    山田千紘さん。自宅の床にはタイルカーペットを敷いている
  • 山田千紘さん。自宅の床にはタイルカーペットを敷いている

目の前で断りの返事をもらうのを何度か見た

   引っ越しのシーズンですね。僕は手足をなくした後、1人暮らしを始めた同じアパートに8年間住んでいます。ただ、物件探しはとにかく大変でした。

   僕は外出時には義足を履きますが、家では車いすに乗ります。「家の中で車いすを使う」と伝えたら入居の許可が下りず、断られた物件が6件くらいありました。そのうち2件ほどは、内見に行った後で断られました。

   車いすで傷などがつくのを懸念されているんだと思います。不動産業者の担当の方から、直接的には「問い合わせたけどダメでした」と結果を伝えられるだけです。ただ、担当の方が電話で管理会社さんに問い合わせて、「車いすのユーザーさんなんですけど、どうでしょうか......ああそうですか、分かりました」と断りの返事をもらうのを、目の前で何度か見ました。

   どの物件も、僕にとって住むための条件を満たしているところでした。まず、駅まで徒歩圏内の家であること。僕は両足義足なので、仮に「駅徒歩5分」と書かれていても、もう少し時間がかかります。歩く距離が長くなればなおさらだし、雨が降った日は滑らないようゆっくり歩くので遅くなります。毎日通勤することを考えると、徒歩圏内であることは譲れませんでした。

   家で車いすを使うので、自力で緊急避難できるかどうかも大事です。僕は義足で階段の上り下りはできるけど、家にいて災害などがあった時、車いすですぐに外出できる環境にしておきたいです。義足が壊れた場合も、外出する手段は車いすしかなくなります。たとえばエレベーターのないアパートの3階に住んだとして、義足が使えなくなったら、車いすが家にあってもどこにも行けなくなります。

   そうすると、住むには1階がベストで、2階以上ならエレベーターが欠かせません。今の家は、エレベーターはないけど1階です。

一番大事なのはオーナーさんの許諾が下りるかどうか

   廊下で車いすの方向転換できるかどうかも、日常生活に関わってきます。廊下が細かったり、一直線に長かったりすると、途中で向きを変えられないから移動しづらくなります。廊下は短いほうがいいし、広めのスペースがあるほうがいい。L字型だと角の部分で方向転換できます。

   そういった点をクリアした上で、一番大事なのはオーナーさんの許諾が下りるかどうか。もともと選択肢が少ないのに、その中で見つけた物件にフラれる。そんなことが続きました。僕は内見に車いすでなく義足で行ったけど、日常的に車いすを使っている人の場合、内見のハードルももっと高いのかなと思います。僕以上に苦労している人はたくさんいると思います。

   最初は「独立洗面台じゃないと嫌だな」とかでさらに条件を絞っていたけど、当初リストアップした3件くらいが全部フラれました。「これじゃ難しいんだ」と思って範囲を広げました。就職先の入社時期が迫っていたので、まず何よりも入社までに家を決めないといけなかったんです。

   そんな中、車いすOKだったので契約したのが、今住んでいるアパートです。最終的に良い物件に巡りあえました。内見した時は「またフラれるんだろうな」と思っていたけど、意外とすぐにOKをもらえました。すんなり許諾してくれるオーナーさんもいるんだと思って、だからこそありがたくて即契約しました。決まったのは入社の約2週間前。間に合ったのでホッとしました。

   引っ越してきた時、車いすで家に傷などが付きづらくなるよう、タイルカーペットを敷いて対策しました。友達が来て手伝ってくれました。誰かに言われて敷いたわけではなくて、せっかく入居の許可をいただいたオーナーさんとトラブルになりたくないから、こちらとしてもできる限り配慮しようと思いました。

「バリアフリー物件」は広くあったほうがいい

   違うところで言うと、敷金を通常の2倍払いました。入居にあたって不動産業者から「傷つきやすくて、退去時に思ったより高額に請求されることがあるから」と伝えられました。「僕、綺麗に使いますよ」とは言ったんですけど、礼金じゃなくて敷金だし、退去時に返ってくるだろうからいいかなと思いました。

   どうにか住めそうな物件を見つけたのに、「車いすです」と伝えたら拒否されてしまうことがある現実は変わってほしいなと思います。エレベーターがないといけないとか、廊下が広くないといけないとか、車いすユーザーの選択肢はもともと少ないです。その中で「車いすお断り」のような現実があるのは、もちろん全てがそうではありませんが、やっぱり残念です。

   入居中に傷がついたら、もちろんこちらの責任ですから、退去時に相応の支払いはします。それが、問い合わせ段階で門前払いされてしまうのは悔しいですよね。車いすユーザーの中には、自立したくて1人暮らしを選択する人もいるし、いろんな事情で家を借りないといけない人もいます。入居希望者とオーナーサイドが、お互い歩み寄れればいいと思います。

   僕は今でこそ希望した部屋で1人暮らしができていますが、物件探しは当時本当に苦労しました。「車いすユーザー専用の物件」を作る必要はないけど、段差をなくしたり手すりをつけたりした「バリアフリー物件」は広くあったほうがいいと思います。車いすユーザーに限らず、子どもや高齢者など、いろんな人にとって優しい家、ゆとりある家が増えてほしいです。

(構成:J-CASTニュース編集部 青木正典)

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