「利府のために」純粋な愛情
アイスリボンでは震災後、毎年3月11日近辺の試合で「チャリティーTシャツ」の提供を欠かさず実施している。会場で、選手が着ていたTシャツを渡す代わりに寄付を募るのだ。「サイズが小さくて自分が着られなくても、『義援金になるなら』と快く買ってくださる人がいます」。
藤本さん自身はもう一つ、震災後に始めた取り組みがある。2020年に故郷・利府町の観光大使に就任したのだ。実はこの年の4月、大使任命記念として利府町でのアイスリボンの試合が予定されていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で延期。翌21年4月に仕切り直しのはずが、今度は1か月前に地震が発生して、会場が一部壊れてしまった。それでも関係者の必死の努力で修復。「利府リボン」と題した凱旋試合が、予定通り実現した。
「利府のために何かしたいと思っていました。それを目的に東京で頑張っているようなものですから」
道を歩いていたら、知らない人でも必ずあいさつをする。駅で1時間、電車を待つ間にたまたま隣り合った人と世間話を楽しむ。そんな町で、藤本さんは育った。「好きなふるさと」へ、純粋な愛情を募らせる。「利府リボン」は今年も4月24日、行われる。
思えば震災を境に、「頭で考えるよりまず、行動しよう」と心掛けるようになった。きょう1日を後悔しない生き方をする。それが今の、藤本さんのモットーだ。
「震災はつらい記憶。私自身は忘れたいし、思い出したくないことはいっぱい。でも、忘れられない。だから一生付き合って、伝えていかなければ」
震災当日は毎年、「ひとりでいるのは、嫌だな」と道場に来ることが多い。誰かと一緒にいたい。それでも14時46分になると、必ず黙とうする。11年目の3月11日も、心を込めて祈りを捧げる。
(J-CASTニュース 荻 仁)
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東日本大震災の発生から11年目を迎えた今年。J-CASTニュースはこれまで毎年、当時被災した各地を訪れ、リポートしてきました。2022年は、震災後に芽生えたさまざまな取り組みの「現在地」に焦点を当てます。この連載は随時掲載します。