日欧米でSWIFT(国際銀行間通信協会)から一定のロシアの銀行を除外する措置が2022年2月末にとられた。これは「金融核兵器」ともいわれ、さらなる制裁強化余地の確保などのために一部銀行を除外したとはいえ、ロシア経済にはかなり効く。さらに、ロシア中央銀行への資産凍結も同時に実施され、両者の威力はかなり強力だ。
じわじわ効いてくる金融制裁
SWIFTは金融機関を結ぶ情報通信サービスの運営団体で、本部はベルギー、200以上の国・地域の1万1000以上の金融機関が参加。国際送金情報を電子的に行うインフラで、海外送金システムの事実上の国際標準となっている。イランの銀行は2012年と2018年に米欧などの経済制裁によりSWIFTから排除されたことがある。
SWIFTからの排除は強力である。暗号通貨による抜け穴、SWIFTにかわるロシア製決済ネットワークや中国人民元などでの決済もあるが、まだ実力不足であるので、金融制裁の効果を完全に相殺するまではいかない。
これらのロシア金融制裁が決まった2月27日以降、ルーブルは、1ドル80ルーブルから1ドル110ルーブルへと大きく下落した。ロシア政府の破綻確率は今後5年で、28日に2割程度、先週末には6割程度まで高まった。
こうした金融制裁は今後じわじわ効いてくるが、その兆候もある。アップルやディズニーなどが相次いで、ロシアビジネスからの撤退を言い出した。サハリン開発においても、英石油大手シェル、英BP、米石油大手エクソンモービル等が撤退の動きを示している。各社の経営判断であるが、決済代金をドルで入手できそうにないというのも大きな判断材料だろう。ロシアでは、米クレジットカード大手のVISAとマスターカードも業務を停止する。
金融制裁で楽観視はできない
ロシア国内の政策金利は20%とそれ以前から2倍強になった。各種制裁の結果、インフレ率は20%以上になるかもしれない。こうした動きは、ロシア国内での厭戦ムードを高める方向になるだろう。実際、ロシアの資産家の一部は海外に脱出している可能性があるとも報じられている。
しかし、だからといって、金融制裁がウラジーミル・プーチン大統領にウクライナからの撤退を決断させるようになるという楽観視はできない。第二次世界大戦以降、軍事力を伴わない制裁措置が成功したケースは5%くらいという実証研究もある。ただし、バイデン米政権関係者は、今回の措置は史上最も大きな打撃を伴う制裁であり、過去の事例とは異なるとしている。
英エコノミスト誌による2021年のロシア民主主義指数は3.24。世界167ヶ国中124位の非民主主義国家であり、こうした制裁への耐性は強いともいわれる。
今のところ、ロシアが核使用をちらつかせるので、核保有の米やNATOも迂闊に手が出せず、ウクライナに対する軍事的な支援とロシアへの経済制裁の組み合わせで対抗している。日本は欧米と歩調を合わせてやっている。
それでも、何もしないよりはSWIFTからのロシア排除やロシア中央銀行の資産凍結という制裁措置を発動する方が、政治的な交渉をするためにも望ましいのはいうまでもない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。