バイオ燃料をはじめとする「持続可能な燃料」(SAF、Sustainable Aviation Fuel)への注目が集まる中、国産SAFの商用化と普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」の設立会見が2022年3月2日、羽田空港で開かれた。
「ACT FOR SKY」には16社が参加。プラント建設大手の日揮ホールディングス(HD)、バイオ燃料製造のレボオンターナショナル、日本航空(JAL)、全日空(ANA)の4社が幹事社を務め、業界横断的に安定した供給体制の構築を目指す。SAFの普及で二酸化炭素(CO2)の排出量を抑える狙いがあるが、現時点ではSAFの価格は現行の石油由来のジェット燃料に比べると「3~4倍」。大量生産でコストを下げることが課題で、コストが下がらないままにSAFの導入を拡大すれば運賃に跳ね返る可能性もある。ただ、SAFを利用しない飛行機の乗り入れを拒否する動きも起こりつつあるとして、ANAの平子裕志社長は「我々はそれを一番恐れている」と指摘。経済安全保障にも関係するとして、危機感を示していた。
世界の航空業界で「SAFの割合を2030年までに10%に増加させると約束」
SAFは主に動植物や廃棄物由来の原料から製造され、石油由来のジェット燃料よりもCO2の排出量が抑えられる。政府が2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」の目標を掲げており、民間も歩調を合わせている。
SAFの導入推進を進める世界経済フォーラム(WEF)のクリーン・スカイズ・フォー・トゥモロー・コアリション(Clean Skies for Tomorrow Coalition)に参加する60社は、21年9月に「世界の航空業界で使用される燃料におけるSAFの割合を2030年までに10%に増加させると約束」したことを発表。この目標を、「2050年までに排出量をゼロにするための重要な節目」として位置付けている。60社には、米ボーイング社や仏エアバス社、JAL、ANAの親会社にあたるANAホールディングス(HD)などが含まれる。
ただ、現時点でのSAFの利用率は1%未満で、そのほとんどが国外産だ。JALの赤坂祐二社長によると、「コロナ前」の段階で日本の航空業界で使用されたジェット燃料は年間1200~1300万キロリットル。目標の10%にあたる120~130万キロリットルは、東京ドームの1つ分、タンカー4隻分の容積にあたる。このためには「膨大な原料」が必要だが、「産業廃棄物や伐採林、ありとあらゆるものを組み合わせる」ことでSAFが生産できるとして、「この取り組みは非常に夢がある」とも話した。
「『SAFがないと飛んじゃいけない』という時代になれば...」
ANAの平子氏は、SAFの供給がひっ迫し、価格が上昇する可能性を指摘した。
「今現在もSAF自体は、(石油由来燃料の)ケロシンの3~4倍の値段がついているが、3~4倍で収まるかどうかというところも懸念材料。今後、利用者も含めてSAFに対する理解を深め、利用者が利用しやすいインセンティブを、ぜひ国の助けも得ながら、やっていかないといけない」
平子氏は発表会後に改めて報道陣の取材に応じ、国産SAFの供給体制を整備することが安全保障上も重要になるとの見方を示した。
「一部の国は、SAFを混ぜた飛行機でないと乗り入れを認めないと言い出す国が出てきている。我々はそれを一番恐れており、これから先、そういった国が増えてくるだろうということを想定すれば、やはり日本国内でSAFを調達して、それを航空運航に供用することが大事」
仮に運航ができなくなると、旅客はもちろん、ワクチンといった物資が運べなくなり「国民の生活にも多大な影響が出る」と指摘。その上で、次のように話した。
「『SAFがないと飛んじゃいけない』という時代になれば、SAF自体が経済安全保障上の重要な物資になる。今すぐではなく、だいぶ先の話だと思うが、それぐらいのことを考えておいた方がいいのではないか」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)