戦禍に見舞われるウクライナに応援のメッセージを送ろうと、同国で3月になると食べられる鳥型のパンを焼き始めたパン屋が東京・高円寺にある。
「早くウクライナに春が訪れるように」――。そう語る店主の心を動かしたのは、混乱の最中でもパンを焼くウクライナのパン職人の姿だった。
当初は子供たちに配布
ウクライナのパンを焼いたのは、新高円寺駅(東京都杉並区)近くにあるパン屋「ベーカリー兎座(うさぎざ)Lepus」の店主・東山伊織さん(39)。同店はウサギの形をしたパンが売りで、メディアに取り上げられることも多い。
ロシアのウクライナ侵攻がはじまってから2日後の2022年2月26日。現地住民への心配の声が広がる中、東山さんはこんなツイートを投稿した。
「そういえばウクライナには春分を祝う鳥の形のパンがあるんですよ。本当はもっと可愛いはずなんだけど私は不器用なので不細工に...」
ウクライナの国立科学機関が運営するサイト「ウクライナ大百科事典」によると、鳥の形をしたパンの名前は「ジャイヴォロンキ」といい、日本語で「ヒバリ」を意味する。鳥がやってくる春の始まりを祝うため、3月22日に焼かれるものだ。少なくとも、1920年代にはウクライナ第二の都市・ハルキウ(ハリコフ)で作られていたという。
東山さんはツイッター上で見かけた写真を参考にパンを制作。ツイッターに投稿した。しかし、ユーザーからは鳥ではなく「アザラシに見える」と指摘されてしまう。「あまりにもアザラシと言われていて、段々自分でもアザラシに見えてきてしまって...」(東山さん)。その後、ユーザーからの助言を受け27日に作り直したものは、ずんぐりむっくりとした小鳥の姿をしていた。ツイッター上でも「鳥になった」との声が集まり、東山さんも「胸を撫で下ろしています」と安堵した。
27日に作ったパンは商品として販売せず、店を訪れた家族連れの子供たちに配布した。受け取った子どもたちからは「かわいい!」などの声が聞かれたという。
「色々な人がウクライナに興味を持つきっかけに」
鳥型パンの存在は2~3年前から知っていたという東山さん。作ろうと思ったきっかけは、現地ウクライナのツイッターユーザーが投稿した一枚の写真だ。ロシアがウクライナに侵攻し、首都キエフに緊張が走った2月24日。そんな状況にもかかわらず、写真には真剣な表情でパンを焼き続けるウクライナのパン職人の姿が映っていた。
「同じパン屋として何か応援のメッセージを発したくて、自分の知っているウクライナのパンを作りました。見た目も可愛いですし、色々な人がウクライナに興味を持つきっかけになればいいなと思っています」
東山さんは「早くウクライナに春が訪れるように」との思いを込め、これから春分の日にかけて店頭で販売する予定だ。「どんな理由があっても戦争をはじめて良い理由にはなりません。口で言う程簡単なものでは無いと分かっていますが、戦争が良い方向で終結し、ウクライナの方々が平穏に春を祝える様になる事を願っています」。