漫画家の赤松健さんと声優の榎本温子さん・神田朱未さんの3人が、2022年2月28日にツイッターの「スペース」上で交わした会話の中で、現役声優の厳しい労働事情が話題になった。
声優人口が増えダンピング化
榎本さんは「彼氏彼女の事情」(1998年)でデビューし、現在も声優やナレーターとして活躍する。
今回のトークの終盤に赤松さんが聞いた「これから政治家を目指す赤松にもしやってほしいことがあったら」という質問に、榎本さんが挙げたのが声優のギャラ事情の改善だった。赤松さんは現在政治団体「表現の自由を守る会」の最高顧問を務め、22年の参院選に自民党から立候補する意向を示している。
アニメ業界の中で、声優の労働環境だけが改善が進んでいないと訴える榎本さん。理由にアニメ出演ギャラの安さと、声優の立場の弱さを挙げた。
「アニメーションのお仕事の値段が安すぎる。値段を上げていくことができるんですが、実際はダンピングが起きているんですね。ほとんどの方が値段を上げられない。長い番組に入っている人か、相応に自信がある方だけが上げていける」
東洋経済オンラインに掲載された声優の大塚明夫さんの記事によると、声優の出演料はキャリアと作品形態に応じたランク制で決められ、デビューしたばかりの新人声優は「ジュニア」というランクで計算される。
榎本さんによれば、ジュニアでの出演料は1回1万5000円だが、そこから上げようとすると
「1万8000円になるとレギュラー(の仕事)では高いって言われるんですよ。1万5000円との差額を現場は払えないってことなんですよね」
と榎本さんは明かした。さらに、
「(出演料が)それ以上は望めないので、女性声優で先にダンピングが起きて。人数も増えたので皆1万5000円から上げることができない」
と声優の過当競争による影響を示唆し、同じことが男性声優の間でも起きていると話した。榎本さんは「私が24年間アニメーションの仕事をしていて変わってない」とも話す。
「事務所の意見だと思われるから言いにくい」
拘束時間と報酬が見合っていない実態も榎本さんは語った。通常、声優と所属事務所の関係は雇用契約ではないため、声優は個人事業主扱いで労働関係の法規が適用されない。
「3か月のアニメーションなのに半年キープがあって、主役じゃない限りは3本くらいしか出ないみたいなことも結構あるんですね。で半年キープされて3本出て3本分のお給料しかもらえないんですね。プラス、スケジュールのバラシ(予定していた仕事が流れること)になるのが遅すぎるんで前の日にバラシになったりするんですけど、本当は前日バラシの料金が払われるはず。なんですが、それを守っている会社も少ない」
「環境が改善される兆しがない」とまで榎本さんが考える背景には、声優の立場の弱さがある。
「事務所に入っていると事務所の意見だと思われるから言いにくいんです。私は今レギュラーでやってないから、こういうふうに言えたりとか、言っても使ってもらえるという自信があるから言うんですけど、キャラクターを人質に取られているような状態なんです声優さんって。言って作品に迷惑かけたら悪い、降ろされるかもっていうので、ずっと言えない状態が続いているので。もっとアニメーションで稼ぎたいって皆思ってると思います」
と話し、「労働環境の改善を求めているんですけど、我々も制作にお金がないのは知っているので、まあ言っても改善されないかもということで、長い間こうどうしようかなみたいになっているという形です」「1万8000円で高いと言われる業界です」と改善が進まないことを訴える。
これらの実情には赤松さんも「ここまで具体的に言った例ってないんじゃないですかね」と驚いた様子。スペースの配信が終了した後のツイッターでは、
「小中学生なりたい職業3位の声優がこれではいけません。改善に向けて取り組んでいきます」
とも伝えていた。