ロシアのウクライナ侵攻で欧州の航空会社がロシア領空を通過できなくなり、日本と欧州を結ぶ路線に運休が相次いでいる問題で、日本航空(JAL)と全日空(ANA)がロシア領空を通過しないルートを検討していることを明らかにした。
両社の社長が2022年3月2日に羽田空港で開かれた記者発表会で明かした。一方で、安全運航が確認できる限りは、現行ルートでの運航を継続する考えだ。冷戦時代の中継地として利用していた米アラスカ州・アンカレジ経由のルートについては否定的で、迂回(うかい)ルートは南回りが有力だ。
カザフスタンや中国の領空を通るルートだと2時間余計にかかる
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧州各国はロシアの航空機に対して領空乗り入れを禁じる制裁措置を決めている。ロシアも対抗し、欧州の航空機に対してロシア領空の乗り入れを禁止。日本と欧州を結ぶ路線はシベリア上空を通過するため、欧州の航空会社に影響が広がっている。
3月2日時点で、KLMオランダ航空、フィンエアーが日本行きの便を運休しているほか、独ルフトハンザ航空、仏エールフランス航空は、ジョージア、カザフスタンや中国の領空を通り、南回りに迂回するルートで運航している。南回りのルートは、シベリア上空経由よりも2時間ほど所要時間が増える。
日本政府は現時点ではロシア機の領空通過を禁じていないため、引き続きシベリア上空を通過している。斉藤鉄夫国交相は3月1日の記者会見で、ロシア機の通過を禁じるなどの制裁措置の可能性について「政府全体において、引き続き、状況を踏まえつつ、G7をはじめとする国際社会と連携して総合的に判断するものと承知している」と述べるにとどめている。
現行ルートは「安全が担保できるという情報が取れる状況においては運航」
ルート変更の可能性を問われたANAの平子裕志社長は、
「何よりも、安全運航が担保できることが大前提。我々も毎日、フライトを飛ばすか飛ばさないかという検討をしているが、情勢が時々刻々と変わっているので、情報を取りながら、安全が担保できるという情報が取れる状況においては運航するが、今後ずっと続くかどうか、まだ分からない」
などと話し、「安全が担保できるという情報」がある限りは現行ルートでの運航を継続する考え。その上で、
「そういった意味からすると、ロシア上空を通らないルートを検討させているし、もしそれが確立できるのであれば、そのルートも選択肢に入ってくる」
と述べた。JALの赤坂祐二社長も「全く同様だ」と同意した。
北回りルートの中継地点としてアンカレジを経由する可能性について問われた平子氏は、「アンカレジ経由はね...。ETOPS(イートップス)ってあるでしょ?」。ETOPSとは、緊急時にエンジン1基のみで飛行可能な時間を定めた国際ルール。北極上空などロシア領空以外のルートでは「ダイバート(緊急時の代替目的地)の空港が、いい空港が取れない可能性がある」ため、「南側が一番有力」だと話した。
両社の社長の発言は、バイオ燃料をはじめとする「持続可能な燃料」(SAF、Sustainable Aviation Fuel)が注目される中、国産SAFの商用化と普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」の設立会見後の、いわゆる「ぶら下がり取材」の中で出た。「ACT FOR SKY」は日揮ホールディングス、レボオンターナショナル、JAL、ANAの4社が幹事社を務める。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)