若手らのアートを紹介するため文化庁や一般社団法人アート東京などが主催して東京で開く展覧会「Future Artists Tokyo 2022」について、アート東京は2022年2月28日、イラストレーターの古塔(ことう)つみさんが手がけたキービジュアルを使用しないと公式サイトで発表した。
その理由について、アート東京では、「著作権者からの指摘があったわけではないが、苦情がたくさん来ており混乱を招くため」だと取材に説明した。キービジュアルは、ゲームのヒロインとの酷似がネット上で指摘されていたが、古塔さんは、「完全にオリジナルです」と取材に答えている。
イラストにはモデルの女性がおり、この女性も「描いてもらった」
古塔さんをめぐっては、著名な写真家の作品などについて、トレースした疑惑がネット上で指摘され、古塔さんは、ツイッター上でトレースは否定した。しかし、権利者の許諾なく「引用・オマージュ・再構築」したことを認めて謝罪していた。
その後も、無断で写真を引用などした疑いの指摘が相次ぎ、グッズなどを販売していた企業が次々に、古塔さんデザインの商品について返品対応などを発表している。
今回の展覧会で、古塔さんが手がけたキービジュアルは、若い女性の顔を透明感のあるタッチで描いたイラストだ。
古塔さんは一連の騒動が明るみになる前の1月28日、このイラストを使った展覧会のポスター写真をツイッターに投稿し、描いた若い女性は、モデルや歌い手をしている朝日奈まおさんをモデルにしたと明かした。朝日奈さんは同月2日、「古塔つみさんに描いて頂きました!ありがとうございます」としてこのイラストの画像をツイッターに投稿している。
一方、古塔さんの盗作疑惑が持ち上がると、このキービジュアルについても、あるキャラとの酷似が指摘された。
それは、大手ゲーム会社「スクウェア・エニックス」が出しているアドベンチャーゲーム「ライフ イズ ストレンジ」のヒロインであるマックスだ。そのキャラ画像と古塔さんのイラストが比較され、顔の輪郭などが似ているとされた。
ただ、古塔さんは、「クライアントワークは全てオリジナル作品です」とコラボ商品には写真からの引用などはないとツイッター上で説明しており、今回のイラストについても、「完全にオリジナルです」とJ-CASTニュースの取材にメールで2月9日に回答した。
キービジュアルは「特段の問題はないと考えている」としたが...
「Future Artists Tokyo 2022」の展覧会は、2018 年にスタートし、若手アーティストらが国際的に活躍するための機会を作ることを目的としている。
今回は、2月24日~3月13日に、一般社団法人アート東京の主催で、モスクワで開く予定だったが、アート東京の広報担当者が2月28日にJ-CASTニュースの取材に答えたところによると、ロシアのウクライナ侵攻が始まって、26日スタートにいったんは延期された。そして、日本政府が銀行決済停止などの経済制裁をロシアに対して実行すると表明すると、アートの取引ができなくなったとして、モスクワでの展示会の中止が決まった。
展覧会は3月10~13日は、文化庁やアート東京など主催で、東京・丸の内の東京国際フォーラムでも開かれる予定になっている。東京での展示会は、アート東京が主催する国内最大級の「アートフェア東京」と併設して開かれ、そこでは、若手現代アーティストら約200人や世界的デザイナーのコシノジュンコ氏らの作品を展示する予定だという。
古塔さんの描いたキービジュアルは、ロシアや東京の展覧会で使われることになっていたが、ロシアでは展覧会中止に伴って使用されなくなった。また、東京の展示会については、アート東京が2月28日に公式サイトに出した「お知らせ」で、キービジュアルを使用しないことを明らかにした。
お知らせでは、「古塔つみ氏の作品に関して、様々な報道及び議論がございますが、これは著作者と当事者の問題であり、弊社と致しましては、特段の問題はないと考えております」としたものの、「東京国際フォーラム(B2F)で開催する展覧会においては、使用する考えはございません」と告知した。
その理由について、アート東京の広報担当者は28日、次のように取材に説明した。
「キービジュアルの策定には、文化庁は関わっていない」
「著作権者から何か言われたわけではありませんが、苦情がたくさん来ており、混乱を招くと考えて、キービジュアルを取り下げることにしました」
古塔さんのキービジュアルをポスターや会場案内のサインで使う予定だったが、使わないことになった。代替のキービジュアルは考えていないという。
古塔さんが朝日奈まおさんをモデルにしたとツイートしたことについては、「モデルをお願いしたことはなく、こちらでは分かりません」と話している。
なお、アート東京の広報担当者は2月10日、「古塔さん本人からは、『キービジュアルはトレースしたものではない』と言われました。第3者による情報しかなく、正直困っています」と取材に説明していた。
文化庁の文化経済国際課は、2月10日の取材に対し、「展覧会の事業者に情報の確認をしていますので、予定通り使うのかも含めてコメントできる状態ではありません」と答えていた。今回のアート東京の発表については28日、「キービジュアル使用中止のことは、アート東京から連絡をいただきました。その策定には、文化庁は関わっておらず、これ以上のことは分かりません」と取材に答えた。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)