オーディオアド(音声広告)にも、デジタル化の波が押し寄せている。
首都圏を主な聴取エリアとするラジオ局・文化放送は2022年2月3日、オンラインセミナーを開催。「デジタル×オーディオの広告戦略」をテーマに、経営学者の入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール教授)を進行役として、広告主とサービス運営企業をまじえて、デジタルオーディオアドの現状について、トークセッションを行った。
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「デジタル×オーディオの広告戦略」をテーマに話した
radikoオーディオアドは「おうち時間」で好調
ここ数年、音声メディアを取り巻く状況が、大きく変化している。放送局などが運営するインターネットラジオをはじめ、個人でも音声配信できるサービスが続々と誕生。ラジオの聴取習慣がなくても、音声コンテンツに接する人も少なくない。新規参入のプレーヤーも増え、その市場規模は膨らみ続けている。
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オーディオアドとデジタルオーディオアドの違い(以下、イベント資料より)
そんななか、順調に伸びているのが、radiko(ラジコ)だ。全国のラジオ99局を聴取できるサービスで、無料のライブ(番組のリアルタイム再生)、タイムフリー(過去1週間以内の番組が聴取可能)に加えて、月額課金のエリアフリー(他地域の番組が聴取可能)の3パターンで提供されている。
radikoの小平誠氏(業務推進室次長)によると、コロナ禍による「おうち時間」も追い風となり、番組本来のCMに代わって挿入される「radikoオーディオアド」の売り上げは、2019年度が昨対比約150%、20年度が約260%と右肩上がりで推移。21年度もすでに、前年度以上になっているという。
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ラジコオーディオアドの特徴
地上波広告との一番大きな違いが、リスナーにあわせたターゲティング配信の有無だ。radikoでは、推計によるデモグラフィック(性別・年代・居住地)や興味関心のデータに、実情報による「どの放送局」の「どのジャンルの番組」を聞いたか、過去に「どの場所」を訪れたかを掛け合わせることで、生活や聴取スタイルにあわせて広告配信できる。
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「ペラック」広告配信概要
第一三共ヘルスケアの北條秀明氏(マーケティング部広告宣伝グループ)は、広告主の立場から、デジタルオーディオアドの可能性を紹介した。同社は、のど治療薬「ペラック」のプロモーションでradikoを活用。音声広告に加えて、それに接触したユーザーに対して、ウェブサイト上でのバナー広告を出稿したところ、さらに広告認知や購入意向などが向上したと振り返る。
北條氏は、音声コンテンツのメリットは、インターネット広告で「可処分時間の奪い合い」が激化するなか、スマートフォンをポケットに入れながらでも、消費者と接触できる点にあると指摘する。
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「ペラック」ブランドリフト調査結果
小平氏によると、広告主が出稿する上で、音声コンテンツ単体での効果より、むしろ他のデジタル広告と組み合わせたときの影響を知りたい、といった要望が多いという。推測ではなく、聴取実態に基づいたターゲットにリーチできるため、効果を可視化しやすく、結果にあわせてプロモーション戦略を調整できる点もまた、優位性のひとつだ。
「声優コンテンツ」の老舗がサポート
では具体的に、どんなコンテンツが効果的なのか。デジタルオーディオアドと親和性が高いのが「声のプロ」である声優だ。アニメ市場の拡大に加えて、イベントや地上波ドラマなど、活動の幅が広がることで、存在感は増している。
ペラックでは2021年11月、人気声優の豊崎愛生さんと小野賢章さんをパーソナリティーに起用して、ツイッターでのライブ動画配信を実施した。ティザーとして3日前から声優によるカウントダウンツイートを行い、終了後もアーカイブ配信や商品紹介動画を投稿 。広告ツイートそのもののインプレッション(露出回数)だけでなく、ファンから自然発生された商品名入りの言及ツイートも増加して、相乗効果が生まれた。
声優ファンの熱意は、一般的なタレントよりも強い傾向があり、企業は広告起用でポジティブなイメージを得やすい。その一方で、マッチングがうまく行かないと、悪印象を与えやすいリスクもある。そこで仲介役になるのが、20年以上にわたりA&G(アニメ&ゲーム)を軸に据え、毎週120を超える声優番組コンテンツを展開し続けている文化放送だ。
ペラックが利用したツイッターでの広告施策では、文化放送が声優のブッキングからコンテンツ制作までを担当。きちんとファンの文脈をおさえることで、広告主がファンとともに「応援」する関係性づくりをサポートしている。
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文化放送×ツイッターの声優プロモーション施策
第一三共ヘルスケアも、プロモーション展開するうえで「声優を安易に起用している」と思われないための関係性づくりを意識している。
「節操なく『声優なら誰でもいいんだ』と見られるブランドにはしたくないなと。なぜこの人なのか、この人と中長期的に付き合うぞとの覚悟を持って、今後も実施していきたいです」(北條氏)
トークセッション後には、実際に声優コンテンツの制作にたずさわる文化放送社員が「現場の声」をプレゼンテーションした。具体的な予算感から、A&Gをめぐる時代背景、「推し」に対するファン心理の変化、そしてコアなファン層の「わかっているな感」を醸成させるノウハウまで――。各種資料やセールスシートなどは「文化放送メディアナビ」への問い合わせで入手できる。
<編集:J-CASTコンテンツ企画ビジネス部>