羽生結弦の「報われない努力」なぜ心に刺さった? 識者が分析する「五輪名言の共通点」

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   「報われない努力だったかもしれない」。北京五輪・フィギュアスケート男子シングルで4位に終わった羽生結弦選手(27、ANA)が、2022年2月10日のフリープログラム滑走後に口にした言葉だ。

   SNS上では「すごく胸が痛くなる」「気持ちを楽にしてくれた」と反響を呼び、大手紙も翌日一面でこの言葉を大きく報じた。なぜ、羽生選手の言葉は人々の心に刺さったのか。そこには、過去に「名言」といわれたアスリートの言葉との共通点があった、と識者は見る。

  • 羽生結弦の「報われない努力」はなぜ心に刺さったのか(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
    羽生結弦の「報われない努力」はなぜ心に刺さったのか(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
  • 羽生結弦の「報われない努力」はなぜ心に刺さったのか(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「報われない」繰り返した羽生結弦

   14年ソチ、18年平昌と2大会連続で金メダルを獲得した羽生選手。今回の北京では、男子94年ぶりとなる大会3連覇に期待がかかっていた。

   しかし、8日のショートプログラム(SP)では、冒頭の4回転サルコーで足がリンクの穴にはまり1回転となった。このミスが響き、8位でショートを終えた。滑走後、羽生選手は「氷に嫌われちゃったな」と振り返った。

   10日のフリープログラムでは、前人未到の4回転アクセル(4回転半ジャンプ)に挑戦。ISU(国際スケート連盟)公認大会として初めて4回転アクセルの認定を受けたものの、ジャンプは失敗に終わった。最終順位も4位となり、表彰台入りを逃した。

   滑走後のインタビューで、羽生選手は言葉を詰まらせ語った。

「一生懸命頑張りました。正直、これ以上ないくらい頑張ったと思います。まあ、報われない努力だったかもしれないですけど。でも...。確かにショートからうまくいかないこともいっぱいありましたけど、むしろうまくいかないことしかありませんでしたけど、一生懸命頑張りました」

   同日には、日本テレビ系五輪メインキャスター・荒川静香さんの取材に「正直悔しいですよ。なんで報われないんだろうなって思いながら、この3日間、ずっと過ごしていました」と思いを吐露。さらにテレビ朝日系の五輪メインキャスター・松岡修造さんの取材にも「努力って報われないなって思いました」と涙ながらに話していた。

「流行語大賞候補」と報じるメディアも

   羽生選手が口にした「報われない努力」という言葉に、ツイッターユーザーも反応。その受け止め方は様々だった。

「すごく胸が痛くなる」
「キレイ事ではない現実を真っ正面から言えるのは凄い」
「羽生くんの頑張りが報われない努力だとしたら、私の努力とはなんなんだ」
「圧倒的多数の報われない人の気持ちを楽にしてくれた」

   メディアも羽生選手の言葉を相次いで報じている。東スポWebは10日に「〝羽生結弦ワード〟がトレンド上位独占! 『報われない努力』は流行語大賞候補か」と題した記事を配信した。朝日新聞は11日の朝刊一面で、羽生選手の結果を報道。見出しは「4回転半、一番近づけた 『報われない努力だったかもしれないけど』北京五輪」だった。

   テレビでも、お笑いコンビ「メイプル超合金」のカズレーザーさんが11日放送の情報番組「めざまし8(エイト)」(フジテレビ系)で「ここまでの努力を重ねた人だけが言える」とコメント。19日放送の情報番組「中居正広のニュースな会」(テレビ朝日系)では、社会学者の古市憲寿さんが「スポーツ選手から言われるとすごい重い」と語るなど、注目を集めた。

アスリートの「歩み」凝縮された言葉

   なぜ、羽生選手の言葉は心に刺さったのだろうか。ジャーナリストの森田浩之氏は2月18日、J-CASTニュースの取材に、言葉の持つ「これ以上ないシンプルさ」が注目を集めた要因になった、と分析する。

「誰もが知っていて、誰もが理解できる『報われない努力』というフレーズ。それがさらっと出てくるところが、メディアジェニック(メディア映えする)な羽生選手らしいと思います」

   今回の羽生選手の言葉は、かつて五輪で日本人選手が口にし、「名言」と言われてきた言葉と共通点があるという。

「一つは、女子マラソンの有森裕子さんが1996年のアトランタ五輪で銅メダル獲得後に残した『自分で自分を褒めたい』という言葉です。92年のバルセロナ大会で銀メダルを獲得し、金メダルが期待されていた中での発言でした。もう一つは、10年のバンクーバー五輪に出場した女子モーグル・上村愛子選手の『なんで一段一段なんだろう』という言葉です。98年長野大会で7位、02年ソルトレーク大会で6位、06年トリノ大会で5位と順位を上げてきた中、バンクーバーではメダルにあと一歩届かない4位でした。いずれの言葉も、アスリートのそれまでの歩みが凝縮された、重みや厚みを感じるものでした」
「今回の羽生選手の『報われない努力』という言葉も、彼の歩みを見ると、その厚みや重みをじわじわと感じます。14年のソチ、18年の平昌で連覇し、『絶対王者』と言われていた。それが、今回アンラッキーな出来事もあり、SPで8位になった。フリーで4位まで順位を上げて、クワッドアクセルに挑戦し初めて認定された。絶妙なストーリーが背景にあった中で、『報われない努力』という言葉が出てきた。羽生選手の生身の人間らしさが、ポッと出た。『絶対王者』が『最高の挑戦者』に変身した、そんな言葉だったと思います」

   羽生選手は20日のエキシビション終了後、テレビのインタビューで、大会をこう振り返っている。

「大人になって、人生って報われることが全てじゃないんだなと。ただ、報われなかった今は、報われなかった今で幸せだなと。不条理なことはたくさんありますけど、少しでも前を向いて歩いていけるように、頑張っていきたいと思います」
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