岸田文雄首相は2022年2月21日の衆院予算委員会で、ガソリンなど燃油価格の急騰対策を巡り、ガソリン税を軽減する「トリガー条項」の凍結解除を含め検討する考えを示した。「トリガー条項も含めてあらゆる選択肢を排除せず、さらなる対策を早急に検討したい」とした。
この真意を考えてみよう。まず、この発言は、21日午前中に自民党の越智隆雄議員の質問に対して行われた。午後には、玉木雄一郎・国民民主党代表の質問に対しても、同じく検討すると岸田首相は答弁している。
「検討」発言は政治の産物
21日は衆院予算委員会での締めくくり総括にあたり、その後、2022年度予算の採決が行われ、自民・公明のほか、国民民主党も賛成した。玉木代表も明言しているが、ガソリン値下げを勝ち取るために予算案に賛成した。
裏から言えば、岸田首相は、国民民主を賛成に回すために、冒頭の「検討」発言をしたわけだ。それで、戦後2番目に早いペースで衆議院を通過することとなった。要するに、岸田首相の「検討」発言は政治の産物だ。これは非難する意味ではなく、どのような政策も政治の産物なので当然の話だ。
もちろん、「検討」は「実施」を意味しない。検討の結果、やらなくてもウソをついた事にはならない。では、どの程度実施するのだろうか。
萩生田光一経済産業大臣は予算委で、首相の「検討」発言について「今後、国際情勢等を含めて国民の皆様にどういう影響を与えてくるのか、それを最小限に抑えるために現在執行中の激変緩和措置をしっかりやっていく。長期化すればあらゆる選択肢を排除しないと申し上げている。今の段階ではトリガー解除は考えていない」としている。
萩生田経済産業大臣の発言は本音だろう
そもそも、「トリガー条項」の凍結解除については、法改正が必要だ。しかも、地方税源が1000億円の減収となるので、地方公共団体との協議や予算措置も必要だ。
今年度予算にはそうした予算措置が含まれていないにもかかわらず、国民民主が今年度予算に賛成とは論理矛盾もあるが、いずれにしても、トリガー条項の実現のためには、法改正と補正予算が少なくとも必要だ。
今年度予算は3月中には成立するが、その補正予算を4月早々に行うのはかなり無理がある。4月以降、今国会は予算非関連法案の審議をしなければいけない。しかも、7月の参院選を控えて、今国会は会期延長しにくい。なにより、成立したばかりの今年度予算を早々に補正予算で手当するはずがない。
その意味で、萩生田経済産業大臣のいうように「今の段階ではトリガー解除は考えていない」は本音だろう。
岸田首相の「検討」発言は、第三極経験の未熟な国民民主を籠絡させるために、予算早期成立で政権基盤を固めたい老獪な自民が放った「毛ばり」ではないだろうか。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。