全日空(ANA)の井上慎一次期社長(63)が2022年2月14日に記者会見し、コロナ禍で厳しい経営が続く中で「1日も早い黒字化を達成」することを誓った。そのための施策のひとつとして掲げたのが、傘下の格安航空会社(LCC)の「ピーチ・アビエーション」との共同マーケティングだ。
井上氏は20年にANAに復帰するまで、10年近くにわたってピーチのトップを務めてきたという経緯がある。
「ピーチと一緒にやることで、より多くのお客様にご利用いただく機会が」
井上氏の人事は2月10日に発表された。4月1日付で代表取締役専務執行役員から代表取締役社長に昇格し、17年4月から社長を務めてきた平子裕志氏(64)は、親会社のANAホールディングス(HD)の取締役副会長に就く。ANA HDでは、片野坂真哉社長(66)が代表権のある会長に就き、芝田浩二取締役専務執行役員(64)が社長に昇格する。
井上氏は三菱重工を経て1990年にANAに入社。LCC共同事業準備室・室長を経て11年から20年にかけて「ピーチ・アビエーション」代表取締役CEOを務めた。
井上氏は冒頭のあいさつで、
「平子社長が推進した安全運航、定時運航がお客様との最大のお約束であるということを前提とした上で、その上でもチャンスを確実にとらえ、収入を上げ、1日も早い黒字化を達成し、お客様、社員、そしてステークホルダーの皆様に還元していかなければならない」
などと述べた。その具体的な方策について、国際線については
「パンデミック(世界的大流行)で各社苦労している。そう簡単に元の便数に戻すことができない状況にあるということは、いろいろなレポートから分かる。こういうときにこそ、アライアンス(航空連合)というものが、もっと違う意味を持ってくるのではないか」
として、加盟する「スターアライアンス」との協力を通じて収益の改善を図りたい考えだ。
国内線については両社で共同のマーケティングを進めるとして、
「ピーチ・アビエーションはご存じのように、ANAとは異なった客層を持っている。そのピーチと一緒にやることで、より多くのお客様にご利用いただく機会ができるのではないか」
と説明した。
観光需要が多いANA路線をピーチに振り替える
平子氏によると、コロナ禍の影響が厳しさを増してきた20年7月に、役員に対して「ANAのサバイバルプラン」を求めたところ、井上氏が提出したプランは「ピーチとのコラボーレーション」が、かなりの部分を占めていた。この点は平子氏と「考えが近かった」という。
ピーチとANAをめぐっては、21年10月末に始まった冬ダイヤで、ANAが運航してきた福岡-石垣線をピーチが引き継いだ。福岡-那覇、中部-札幌(新千歳)、中部-那覇の3路線はANAが減便し、その分ピーチが増便している。観光需要が多い路線をピーチに振り替えることで、収益の向上を図る狙いがあるとみられている。
平子氏は、こういった経緯を念頭に
「ピーチとANA、同じ航空事業のリソースを、もっと活用してやっていくときが来る。それは、地方路線のネットワークの充実という観点からも、これからも必要になってくると思う。(羽田と新千歳、伊丹、福岡などを結ぶ)幹線においても、相互乗り入れは『基本的にはカニバリゼーション(共喰い)になるんじゃないか』とみんな言うが、飛んでいない時間帯もある」
などとして、幹線でも時間帯によってはピーチに置き換わる可能性を示唆した。
ANAとピーチの深い連携は「あり得ますね」
ANAとピーチが今よりも深い連携をする可能性について問われた井上氏は「あり得ますね」。両社のすみ分けについては次のように話し、ANAグループ内で選択肢を用意することを重要視している。
「やはり顧客視点で考えることが大事だと思う。欧米を見ていると、LCC、(従来型の)フルサービス系というのは、お客様にとっては選択肢。これまでフルサービスしかなかったところに、LCCが入ってきた。中には中間のハイブリッドみたいな、ジェットブルー(編注:米国が拠点のジェットブルー航空。LCCの中では高級志向で知られる)みたいなのが出てくるが、あれも多分選択肢」
その「選択肢」の内容は、顧客のニーズを探りながら整備を進めていきたい考えだ。
「例えばロング(長距離フライト)だったら『やっぱりシートはゆったりしたい』というニーズがあるし、短ければ『別にいいよ』というニーズがあるかもしれない。そういったところをまめに調査しながらサービスに仕立てていくということだと思う」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)