「ソーシャルファーム(social firm)」という単語を耳にしたことがあるだろうか。訳すと「社会的企業」。半世紀前にイタリアで生まれた概念で、就労に困難を抱える人々を受け入れて、他の労働者と一緒になって働く会社や団体を意味する。
ソーシャルファームを、日本にも根付かせたい――。多様性を尊重する時代背景が追い風になるなか、そう思うのは民間の側だけではない。物心あわせたサポートを通して、企業と伴走しながら「汗をかく人々」がいる。
東京都で「日本初の認証制度」が始まった
ソーシャルファームの考え方は、1970年代のイタリア・トリエステで生まれた。精神科医バザーリア氏の働きかけで、精神病院を廃止して、精神障害者を隔離せず、地域の中で働きながら通院できるようにしたのが始まりだ。
旧トリエステ県立精神病院には「LA VERITÀ È RIVOLUZIONALE!(真実は革命を起こす!)」と書かれている
その後、ドイツなどでも広がり、現在ヨーロッパでは約1万社が創設。精神障害者のみならず、幅広い就労に困難を抱える人々が対象となっている。アジアでも、韓国で約15年前から広がり、高齢者や低所得者、ひとり親などを約3000社が受け入れているという。
ドイツの三ツ星ホテル「ホテル クリストフォルス(Evangelisches Johannesstift Proclusio gGmbH)」は、従業員80人のうち50%が障害者
そんな「ソーシャルファーム」を初めて認証制度として導入したのが東京都だ。小池百合子都知事が旗振り役となり、2018年から検討を進め、日本国内の先行例やドイツ、韓国での現地調査を経て、19年12月に条例を施行した。翌年に認証ソーシャルファームの募集を始め、21年3月、要件を満たした3つの「認証事業所」と、認証に向けて準備する25の「予備認証事業所」を公表。現時点(22年2月)で認証事業所は16まで増えている。