高カロリーや油脂分の多さなどを特徴に、食べるのを躊躇するような「背徳グルメ」が飲食・食品業界を賑わせている。
2021年はたっぷりの生クリームを使ったスイーツ「マリトッツォ」が流行。今年はニンニクを効かせた韓国発祥の「マヌルパン」が脚光を浴びている。「背徳グルメ」に注目が集まる理由を専門家に聞いた。
「背徳めし」レシピ本も登場
居酒屋チェーン「はなの舞」は白子、あん肝、イクラなどを載せて食べる「痛風極み小丼」を1月14日に発売した。運営会社のチムニー(東京都墨田区)の商品開発担当者は1月27日、取材に「『背徳感』を感じるような商品がトレンドになっていたこともあり、インパクトの強い商品名を採用しました」と話す。
「背徳」という言葉が、飲食・食品業界を席巻している。昨年3月にはSNSで人気の料理家・リュウジさんがレシピ本『バズレシピ 真夜中の背徳めし』(扶桑社)を出版。即席麺大手のエースコック(大阪府吹田市)は昨年12月にカップ麺「スーパーカップ大盛り 背徳感MAX ブタキム油そば」を発売した。
背徳グルメの象徴が、パンにたっぷりの生クリームを挟んだイタリア発祥のスイーツ「マリトッツォ」だ。20年に福岡市のベーカリー「アマムダコタン」が販売を始めると、メディアに取り上げられ、注目が集まった。昨年は大手コンビニで販売が相次ぎ、同年のユーキャン新語・流行語大賞にもノミネートされた。
コンビニでも販売開始「マヌルパン」とは
今年、新たな背徳グルメとして脚光を浴びているのが、韓国発祥の「マヌルパン」だ。マヌルは韓国語で「にんにく」を意味する。ガーリックバターとクリームチーズを入れて焼き上げた丸型のパンで、昨年は各地のベーカリーで販売され注目を集めた。
今年に入り、大手コンビニも流れに乗り始めた。セブン-イレブン(東京都千代田区)は2月8日から「マヌルパン ガーリック&チーズ」の販売を開始。ローソン(東京都品川区)の健康志向商品を扱うコンビニ「ナチュラルローソン」でも、1日から2種類のマヌルパンの取り扱いをはじめた。商品名は「罪深いマヌルパン」と「大麦パン 罪のないマヌルパン」。食べる際に抱く「罪悪感」を打ち出したネーミングになっている。
ローソンの広報担当者は8日、取材に「コロナ禍でみんながマスクしている状況の今だからこそ、お客様もガーリックがきいた商品を抵抗なく買えるのではないでしょうか」と話す。ガーリックオイルを強く効かせた「罪深いマヌルパン」に対し、「罪のないマヌルパン」では健康志向の強い消費者を念頭に、ガーリックと糖質を控えめにした。
流行の要因は?
フードライターの笹木理恵氏は8日、取材に対し、「背徳」をキーワードにしたグルメはここ1〜2年の間に目立ってきたと話す。ターゲットは働き盛りの20〜50代。コロナ禍で旅行に気軽に行けない中、身近なストレス発散方法として「食」が注目されたことも、流行の要因ではないかと分析する。
一方で「ホイップクリームたくさん、ニンニクたくさんのように、食べると罪悪感を感じるようなグルメは、もともと一定のニーズを持っていた」と話す。そうしたグルメはこれまで「デカ盛り」「鬼盛り」「悪魔飯」などの言葉で表現されてきたが、「今は『背徳』という言葉がはまっている」状況だという。
なぜ「背徳」という言葉が定着したのか。そこには、言葉を目にした際に受ける「とっつきやすさ」がある、と分析する。
「昨今、食のトレンドとSNSの投稿が切り離せない関係にある中、『背徳』は男女問わずにつぶやける言葉として、SNS上で盛り上がりを見せました。また、女性目線で見ると、『デカ盛り』や『鬼盛り』より『背徳グルメ』と言われた方が、とっつきやすい印象があります。商品を手に取る人の裾野が広がったと言えるのではないでしょうか」
近年は「背徳」と相反するような、「健康志向」を打ち出した商品も多く登場してきた。笹木氏は「毎日の食生活で野菜を摂る、というように、健康志向は今や『トレンド』ではなく『ライフスタイル』として定着した印象です。一方で、背徳グルメは毎日食べ続けるものではなく『今日は食べちゃえ』という思いに応えるもの。消費者の間で、うまく使い分けられているのではないでしょうか」と話した。