「ハヤカワ文庫の上部がガタガタ、製本ミスだろうか」−−。
このような声に、早川書房の編集部がツイッターで待ったをかけた。「天アンカット」という技法を使った意図的な製本だとしている。その狙いなど詳細を取材した。
「本は紙の束であるという原点を、より感じられる」
早川書房(東京都千代田区)の「翻訳SFファンタジイ編集部」が2022年2月6日、
「ハヤカワ文庫の上部がガタガタ、製本ミスだろうかというツイートを見かけたのですがそれは『天アンカット』という製本でワザとそうしているんです」
とツイートした。続く投稿では、書籍の断裁面を写した写真を披露している。側面は紙の高さがすっきりと整えられているのに対して、上側は不揃いで自然な風合いになっているのが確認できる。
投稿を受けてツイッターでは、「あれ天アンカットっていうのか!」「初めて知った...そうだったんだ。粋だな...」などと反響が広がっている。
同社の造本部門・担当者は8日、J-CASTニュースの取材に技法の概要を次のように説明した。
「大きな紙に複数ページが印刷されたものを折り畳み、背表紙側は製本のため糊付け、その他の3方を断裁することで各ページが切り離されて本の形になります。その3方のうち、本の上側(天)を断裁しないものを『天のアンカット』といいます」
どのような狙いがあるのか尋ねたところ、
「伝統的手法であり、制作部門としては、本は紙の束であるという原点を、より感じられるものだと思っています」
と伝える。一方で認知度については「一般読者には知られていないと思います」といい、製本ミスを疑うような反応があった事への受け止めを「今の読者がそう思うのは充分理解できます」とする。
天アンカットは「手間隙がかかる」
天アンカットを用いる際に苦労する点は、
「天を断裁しないため、複数ページが印刷された紙を折るときの正確さが必要になります。天はぴったりとは合わない仕様ではありますが、許容範囲は限られています」
だという。担当者は「手間隙がかかるものですが、小社の取引会社は昔から丁寧な仕事をしてくれています」とも伝えた。認知度の向上に関しては次のように意気込む。
「『本』は内容がとりあげられることがほとんどで、製品自体についてはなかなか議論の対象になりません。今回のことはよい機会だと思います」
なお天アンカットは同社に限らず、「岩波文庫」や「新潮文庫」など多数に採用されている。
ツイッターアカウントの担当者は取材に対して、過去には他社の投稿が話題になっていたと振り返りつつ「それでも今回、こんなに話題にしていただけ、興味を持っていただけました」と喜びを表す。
そのうえで今後の展望を、
「今後、弊社アカウントで、本の製本や装幀についても、ときどき紹介していけたらと思います」
と伝えた。