小泉純一郎、菅直人両氏ら5人の首相経験者が、東京電力福島第1原発の事故で「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ、莫大(ばくだい)な国富が消え去りました」などとする書簡を欧州連合(EU)の行政を担う欧州委員会に送り、福島県の関係者が反発している。
菅氏は立憲民主党の最高顧問を務めている。立憲の泉健太代表は2022年2月4日の定例会見で、「科学的知見に基づく客観的な情報」の発信を求める福島県の内堀雅雄知事の見解に同意するとした上で、「党としての活動ではない」として、菅氏については特段の対応を行わない考えだ。
福島県知事「あたかも事実である、あるいは確定したものであるかのように...」
元首相らによる書簡は1月27日付けで、欧州委員会が持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー」に原子力を含める方向で検討を始めたことを批判する内容。原発事故の被害に関する記述の中に「多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ」という表現がある。
福島県の検討委員会では、県の検査で見つかった甲状腺がんについて、現時点では放射線被ばくとの関連は認められないとの見解を示している。この見解を念頭に、福島県の内堀雅雄知事は2月3日の記者会見で、
「科学的知見に基づく客観的な情報を発信していただくよう書簡により申し入れた」
ことを明らかにした。書簡に甲状腺がんに関する記述があったことを「遺憾」だとして、その理由を次のように説明した。
「原子力災害に伴う課題というものは、この件に限らず本当に複雑多様で、さまざまな葛藤がある。それを短いワードで切り取ってしまうと、あたかもそれが事実である、あるいは確定したものであるかのように受け取られかねないという側面を含んでいる」
泉氏は記者会見で書簡に関する見解を問われ、
「私も知事の言う通り、科学的知見に基づき客観的な発信を、ということ。そういう考え方には同意を致すところ」
とする一方で、菅氏への対応については
「元首相という枠組みの中での行動、判断、ご自身の判断で行われているものだと理解している。党としての活動ではない、ということだ」
と述べるにとどめた。