「お客様満足度第一位」「業界シェアNo.1」「おかげさまでNO.1、3冠達成!」――。市場調査会社の業界団体「日本マーケティング・リサーチ協会」(JMRA)が、広告で訴求するための"やらせ調査"が広まっているとして、異例の抗議状を公表した。
一部の悪質業者により市場調査の信頼性が揺らいでおり、見過ごせない事態となっているという。実状を聞いた。
まるで魔法?希望の結果を作ります
JMRAは1月18日、「非公正な『No.1 調査』への抗議状」と題した声明をウェブサイトで公表した。同協会は1975年設立で、インテージやマクロミル、日経リサーチ、矢野経済研究所など約120社が加盟する。
声明によれば、ここ数年、商品やサービスの広告で「No.1」と表記するための調査依頼が増えているという。他社と比較して自社の優位性を訴求するためだ。
しかし、「No.1調査」を請け負う会社や斡旋業者の中には、「No.1を取れる自信がないが、相談に乗ってもらえるのか」「No.1 表記を行いたいが、どの条件であればNo.1 の獲得ができるのか相談したい」といった顧客をターゲットとして、調査対象者や質問票を恣意的に設定する調査手法が見受けられるという。
JMRAはこうした事業者に対し、
「生活者の肌感覚を市場調査によって裏付けることはあっても、希望の結果を作り出す市場調査は、マーケティング・リサーチを実施する目的ではない」「『市場調査』に対する社会的信頼を損なうものであるため、当協会としては到底看過できません」
と指摘し、「中立的立場で公正に『No.1 調査』を行うべき」と要請している。
問題発覚は6年前
JMRAの中路達也事務局長はJ-CASTニュースの取材に、問題に気づいたのは6年ほど前だったと話す。
当時、「No.1を取らせます」と宣伝する調査会社が現れ、協会内で問題視されたという。しかし、「No.1を証明するのは非常に大変で、安易にうたう企業は自然淘汰されるだろう」と考え静観していた。
こうした企業は予想に反して年々増え、リサーチ手法に問題のある「No.1 調査」が定着してしまった。
「JMRAの加盟社は倫理規定などがあり難しいが、非加盟社に頼むと話が進むかもしれない」との旨を呼びかける斡旋業者まで見つかり、「そこまで言われると声をあげないといけない」と抗議にいたった。
プレスリリース配信サイト「PRTIMES」で「No.1」を含む企業情報を調べると、約6万件該当した。記者の元にも事業会社やPR会社から日々届くが、中には調査設計が不明確だったり、客観性に乏しかったりするケースが散見される。
行政処分を受けた企業も
JMRAの綱領では、「リサーチプロジェクトは、適法、公明正大、誠実、客観的でなければならず、かつ、適切な科学的諸原則に基づいて実施されなければならない」と明記している。
公正取引委員会は2008年に「No.1表示に関する実態調査報告書」で、No.1表記は景品表示法上、問題となる場合があると指摘している。不当表示(有利・優良誤認)にならないためには、「①No.1表示の内容が客観的な調査に基づいていること②調査結果を正確かつ適正に引用していることの両方を満たす必要がある」と示す。
JMRAインターネット調査品質委員会の岸田典子さんは、非公正な調査例として次の6点を挙げている。
・調査設計についての記載がない。
・母集団の構成比がゆがんでいる(若い人に受けている商品なら、構成比を若い方を多くするような操作が可能)
・十分なサンプル数がない。回収状況を見て、結果が1位になったところで恣意的に調査を終了する。
・2位との間に有意な差がない。
・とにかくカテゴリーを細分化して、無理やり1位になれる商品カテゴリーを作る。
JMRAは抗議状について「しっかりしたNo.1調査はもちろんあります。No.1が絶対に良くないというわけではないです」と前置きしつつ、「そうでない調査が広がっていることも世間に伝わって欲しい」と狙いを明かす。
特定の調査会社を糾弾する意図はなく、「No.1表記は広告効果が非常に高いので付加したい気持ちはわかりますが、調査会社の言い分を安易に信じて表示してしまったことで消費者からの信頼を失うことがあると認識してほしい」と警鐘を鳴らした。
消費者庁は17年4月、広告で「『業界最速』の通信速度」「SIM販売シェアNo.1」と合理的な根拠なく表示していたとして、景表法違反でプラスワン・マーケティング(同年12月に経営破綻)に措置命令を出した。8824万円の課徴金納付命令も下した。
20年9月には、埼玉県が家庭教師派遣サービスを運営する「ワン・ツー・ワン」(東京都豊島区)に対し、景表法違反で措置命令をした。
広告で「家庭教師お客様・料金・第一志望校合格満足度3部門第1位」「2019年3月全国の子どもがいる20~50代の男女から選ばれました」と顧客からの満足度が高いかのような表示をしていたが、実際には調査会社がネット上で収集したイメージ調査の結果だった。
依頼企業、消費者双方のリテラシーも重要
JMRAは「こういう実態があると市場調査自体の信頼性が揺らいでしまう。それは誰にとっても得ではないはずです。消費者は何を信じればいいのかとなってしまいますし、消費者の善意で成り立っている調査にも協力してもらえなくなるはずです」と危機感を募らせる。
一方で、クライアントと広告を目にする消費者にはNo.1表記の信ぴょう性を判断するリテラシーを養ってほしいとも訴えた。悪質な調査会社への依頼が無くなり、消費者の目も厳しくなれば「自ずとやっていけなくなる」と期待する。
JMRAでは、公正なリサーチ基準をまとめたガイドラインを策定中で、今年5月をめどに完成予定だ。
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)
マーケティングリサーチをめぐるNo.1問題について、引き続き取材を進めていきます。情報をお持ちでしたら、https://secure.j-cast.com/form/post.htmlまでご連絡ください。