ヤマトホールディングス(HD)と日本航空(JAL)が2024年4月から貨物専用機の運航を始める。JALは1961年に日本初の本格的貨物専用機を導入したが、2010年1月の経営破綻を機に、同10月末に貨物専用機から撤退。13年半ぶりの貨物専用機運航だ。
コロナ禍で航空旅客需要が大きく減少する中、「巣ごもり需要」などで貨物需要は堅調だ。だが、JALは事業環境のボラティリティ(変動の激しさ)を理由に、自社として貨物専用機を導入することには否定的だった。ただ、今回の取り組みでは、ヤマトHDが機体を導入し、JALが出資する格安航空会社(LCC)のジェットスター・ジャパン(JJP)が運航する仕組みだ。ヤマトHDとしてはトラックドライバー不足に備え、輸送網を強化する一方で、JALとしてはリスクを抑えながら需要を取り込む狙いがある。
羽田・成田と新千歳、北九州、那覇を結んで宅急便を運ぶ
両社の計画では、昼間は成田空港、夜は羽田空港を拠点に、新千歳、北九州、那覇の3空港を結んで宅急便を運ぶ。旅客機を貨物専用機に改造した「エアバスA321ceo P2F型機」をヤマトHDがリースで3機導入し、その機体をJJPが借りて運航する。1機当たり28トンの荷物を積むことができ、10トントラック5~6台分にあたる。年間10~15万トンの輸送を想定している。
JJPは小型機のA320型機を運航している。A320の長胴型を貨物専用に改造したものが「A321ceo P2F」だ。JJPにとって運航しやすいため、この機種が選ばれた。
ただ、JALは貨物専用機には基本的に慎重な立場だ。菊山英樹専務は21年8月3日のオンライン会見で、貨物専用機を導入する可能性について問われ、
「結論から申し上げれば、従来の戦略を大きく変えるつもりはない。『私の目の黒いうちはそういったことは考えない』ということになると思う」
と述べている。航空貨物をめぐる状況について「今はいいですけど」とする一方で、次のように述べていた。
「いかにボラティリティが高いものであるかということは、骨身にしみて理解しているつもりなので、そこは(貨物専用機の導入の)投資効果については十分にまかなえないと思っている。むしろ、ポストコロナのきちんとお客様の需要が戻る世界の中で、我々がボラティリティをある程度ミニマイズ(最小化)した中で収益を最大化していくかを考える上では、基本的にはフレイター(貨物専用機)を導入する考えはない」
JALにとってのポイントは「今回、確実な需要が見込めるというところ」
今回の取り組みのポイントのひとつが、JALが自社で機体を持つわけではない、という点だ。JALの岩越宏雄執行役員(貨物郵便本部長)は1月21日のオンライン会見で、
「今の航空貨物需要を見れば、貨物(専用)機を持っていることが非常に有利に働くとは思う」
とする一方で、次のようにリスクにも言及。今回の取り組みに踏み切った理由を説明している。
「やはり過去ずっと保有してきた中で、景気の動向をかなり受けるビジネスであり、ボラティリティが非常に高いビジネスであることも、一方で認識している。そういった中で今回、確実な需要が見込めるというところ、これがひとつのポイントであると思うし、加えて、今後の社会環境等々を考えると成長性のある市場ではないか」
その上で、
「今のところ、自社でフレイターを保有する計画はない」
と述べている。
一方のヤマトHDにとっては、引き受ける荷物が増える中で、働き方改革関連法の施行で24年4月1日から自動車運転業務の年間残業時間の上限が960時間になる。ヤマトHDの事業会社、ヤマト運輸の梅津克彦執行役員(戦略渉外担当)によると、長距離運送の場合「地域によっては、途中で乗り換えを行わなければならない現象が起きてくる」ため、安定したドライバーの確保が問題になってくる。空路という形で、900~1200キロの長距離の輸送能力を自前で持つことで、今後伸びる貨物需要の一部を担う。さらに、災害で陸路が使えなくなった際の輸送手段を補完する目的もあり「持続的かつ強靭な輸送ネットワークを保有し、確立」を目指す。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)