悪質なアフィリエイト(成果報酬型)広告への対応を検討する消費者庁の有識者会議(中川丈久座長)が2022年1月28日に開かれ、前日に公表した報告書案を協議した。
新たな規制や法改正は見送られる予定で、一部の"極悪"事業者の排除に向けて行政処分の強化などが提言された。
「規制強化は極悪層に響かない」
アフィリエイト広告は、アフィリエイターと呼ばれる個人または法人の広告制作者が、代理店やアフィリエイトサービスプロバイダ(ASP)と呼ばれる仲介事業者の依頼を受けるなどして、広告主の商品をネット記事などで宣伝する。販売サイトへの送客数や契約数に応じて、制作者は報酬を得る。
アフィリエイト広告の商流イメージ(消費者庁資料より)
矢野経済研究所の調査では、20年度のアフィリエイト広告市場は3258億円(前年比5.2%増)の見込みで、4年後には4951億円に拡大すると予測する。
しかし、美容・健康系などの分野で、商品の効果や販売条件について虚偽・誇大な表示をしたり、口コミサイトを装った「ステルスマーケティング(ステマ)」を駆使したりと、苦情が後を絶たない。最近では、身体的なコンプレックスを煽るような過激な表現も問題視されている。
報告書案によれば、コンプライアンス(法令順守)意識が欠如した広告主や広告代理店、コンサルタント会社などが、セミナーを通じて「絶対に儲かるアフィリエイト広告」などと喧伝して情報商材を販売するケースもある。薬機法や景品表示法などに抵触するような不当表示を推奨する事業者もいるという。検討会では、こうした関係事業者を「極悪層」と分類していた。
アフィリエイト自体は健全な広告手法だが、生活者からはごく一部とみられる悪貨(極悪層)が良貨(善良、中間層)を駆逐しているように映ってしまう課題がある。
「相当悪質な極悪広告主が、モラルの低いASPを使って悪質なアフィリエイターを集めた展開をしている」(日本アフィリエイト協議会の笠井北斗代表理事)
「悪質な事業者が1社だったとしても、露出量が多ければ、大量に露出されますので、なかなかなくならない」(日本アフィリエイトサービス協会の河端伸一会長)
「問題のある広告は消費者への訴求力が高いため、誘引される消費者が多く、消費者が被害にあうだけでなく、結果的に適切な広告を出している事業者が本来得られるはずの利益が得られない」(全国消費生活相談員協会の増田悦子理事長)
「法改正やそれに伴う規制強化は、極悪層に響かない。そもそも最初から法順守の姿勢は無い、無視もしくは潜脱。関係各位での情報共有と徹底的な取り締まりが必要」(通信販売協会の万場徹専務理事)
会社を潰して繰り返し...
"極悪"な広告主には、非難を回避する「抜け道」が複数あることも検討会で明らかになった。
自社商品・サービスの広告が虚偽だと指摘されると「アフェリエイターが勝手にやった」「把握していない」と言い逃れ、あらかじめ「アフィリエイト広告に関する責任は一切負わない」と宣言する企業があるという。日本アフィリエイト協議会の笠井氏は「広告主が自社の社員に不当な広告を作らせて、あたかもアフィリエイターがやっていると見せかける事例もある」と話す。
※消費者庁の実態調査では、広告主から「量が膨大であり、全てのアフィリエイト広告について、表示内容をチェックしきれる体制が整っていない」「表示内容のレギュレーションを作成したとしても、それを破ってアフィリエイターが勝手な表示内容や画像を使うことがある」と管理の難しさをうかがわせる意見も出ている。新経済連盟、アジアインターネット日本連盟は意見書で「広告主に対して、あらゆるアフィリエイターによるあらゆる投稿(感想の投稿も含む)の事前確認、事後確認、表示内容の保存等を事実上義務付けることは、不可能を強いるものである」とけん制している。
広告を見て購入した生活者がトラブルに巻き込まれた際、責任の所在があいまいなために問い合わせ先がわからない、十分な対応を受けられないという被害も起きている。
行政当局から指摘を受けるたびに会社を清算し、別会社を立ち上げ同様の商品販売を続ける事例も見つかっている。
「行政当局が当該広告主に対してのみ法執行をしても、すぐに出資会社やコンサルタント会社から指示を受けて他の悪質な広告主が発生してしまい、行政とこれらの者との間でいたちごっこが続いてしまうという実態がある」(検討会)
2019年度に消費生活センターに寄せられたアフィリエイト広告関連とみられる相談は約5万件で、法令順守への厳しい姿勢が求められる上場企業に関する相談もあった。
「アフェリエイターが勝手にやった」を封じ手に
上記の実態を踏まえ、報告書案では(1)景表法上、広告主が責任主体だと周知徹底する(2)悪質な事業者への法執行強化(3)不当表示の未然防止――を提言した。
(1)は、「アフェリエイターが勝手にやった」との責任逃れのような主張を防ぐ狙いだ。業界関係者や生活者に広報する。景品表示法に基づく厳正な対処も、広告主の責任を効果的に知らしめる手段だと指摘している。
(2)は、行政機関が景表法のほか、消費者安全法などの関連法規を積極的に活用するよう要望する。
特定商取引法では個人を対象とできるため、悪質な手法を指南する "諸悪の根源"に対して業務禁止命令を行えるという。薬機法、健康増進法はいわゆる「何人(なんぴと)規制」で、広告主だけでなくASPやアフィリエイターにも適用できる。
(3)は、広告主による相談窓口の設置、売上の多いアフィリエイターの重点監視、広告表示の根拠となる情報を事後確認できる体制づくりなどの具体案が示された。
アフィリエイト広告では、中立的な立場で評価したような内容で商品を宣伝する場合がある。好意的な口コミや体験談(実例:たった2ヶ月で髪がフサフサになったんです!)を載せたり、ランキング形式で商品の優位性をアピール(同:ダイエットサプリランキング!第一位は○○)したりする形式だ。
広告とわからず情報をうのみにする生活者も少なくなく、提言では広告である旨を明記するといった措置を講じるべきと指摘している。日本インタラクティブ広告協会の柳田桂子事務局長は「アフィリエイト業界がアフィリエイトサービスの特性や態様を考慮して基準を定めることが適切である」と自主基準の必要性を訴えた。
消費者庁表示対策課はJ-CASTニュースの取材に対し、報告書の確定版は2月中を目途に公表すると答えた。委員からの提言を踏まえ、指針を定めていくという。
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)