なぜ「稼ぎ頭」ブラックサンダーの看板を新商品で外したのか 有楽製菓が新ブランドで踏み出す挑戦

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   有楽製菓(東京都小平市)が販売するチョコレート菓子「ブラックサンダー」。一個数十円から買える低価格と豊富なラインアップが特徴で、前期決算ではお菓子商品の売り上げの8割をブラックサンダー関連品が占めた。

   そうした中、同社が今年1月に発売したのが「PICKS(ピックス)」「Maico(マイコ)」というチョコレート菓子。いずれもブラックサンダーと同じ一口サイズのチョコレート菓子だが、全くの新ブランドだ。

   なぜ、圧倒的シェアを持つ「ブラックサンダー」の看板を外したのか。同社にねらいを聞いた。

  • 有楽製菓が「ブラックサンダー」じゃない新商品を出した理由
    有楽製菓が「ブラックサンダー」じゃない新商品を出した理由
  • 有楽製菓が「ブラックサンダー」じゃない新商品を出した理由

新商品は年間10-20種類

   ブラックサンダーは1994年に販売を開始。ビスケットとココアクッキーをチョコレートでコーティングした一口サイズのお菓子で、ザクザクとした食感が楽しめる。一個30円(税抜き)という低価格も特徴だ。

   発売当初は売り上げが伸び悩んだが、00年代に入ると風向きが一転。06年には東京農工大学の学生と生協職員のやりとりが人気を集めたブログ「がんばれ!生協の白石さん」に登場し話題を呼ぶと、08年には北京五輪で活躍した体操・内村航平選手の好物としてメディアに取り上げられた。その後も年々支持を広げ、18年には年間販売数2億本を突破した。

   今では「日本の国民食」(有楽製菓公式サイトより)を射程に収めるブラックサンダー。強みは、豊富なラインアップにある。例えば、21年には四角いブロック状の「ブロックサンダー」や、バニラアイスをかけ合わせた「ブラックサンデー」など遊び心を感じる商品を販売。素材へのこだわりを打ち出した高級路線の「ブラックサンダープレミアムシリーズ」も人気だ。リニューアル品を含め、年間10〜20種類の新商品が登場する。

   マーケティング部商品戦略課の牧宏郎さんは2022年1月24日、J-CASTニュースの取材に、新味を積極的に出すことで消費者に通常のブラックサンダーを想起させ、「比べて食べてみたい」と思わせるねらいがあると説明する。

   同社の第63期(20年8月〜21年7月)決算では、コロナ禍での「巣ごもり需要」によるパーティーパックの人気や、プレミアムシリーズ「至福のバター」のヒットもあり、ブラックサンダーシリーズが過去最高の売り上げを記録した。

「食感」でブラックサンダーと差別化

   63期決算ではお菓子商品の売り上げのうち、約8割をブラックサンダー関連商品(お土産商品を除く)が占めた。残り2割は、1997年発売の「チョコケーキ」や小売店のPB(プライベートブランド)商品などだ。

   「まだまだブラックサンダーに稼ぎ頭になってもらっている」状況だと話す牧さんは、ブラックサンダーが長年愛される理由を、お弁当やコーヒーなどともに「手軽に購入できる」点にある、と分析する。その一方で、ブラックサンダーとは異なるコンセプトの商品を作ることで、さらに幅広い層や幅広いシーンで楽しんでもらえるのではないか、とも考えていたという。

   そうした中、昨年から進めてきたのが「ブラックサンダー」シリーズではない、新ブランドの開発だ。22年1月11日にミニストップで販売を始めた一口サイズのチョコレート菓子「PICKS」は、それぞれ食感の異なる「ふわっ」「とろっ」「さくっ」(各税込み54円)の3種を展開。「ザクザク」が特徴のブラックサンダーと、食感面で差別化を図った。

   「食感を選ぶ楽しさを伝えるため『PICKS』(pick=選ぶ)というネーミングにしました」と、マーケティング部商品開発課の村越芽美さんは話す。

新商品「PICKS」3種類。真ん中に切れ目があり、割って食べられる
新商品「PICKS」3種類。真ん中に切れ目があり、割って食べられる

   形状にもこだわりがある。チョコレートの中央に切り込みがあり、割って食べられる仕組みだ。村越さんは、ブラックサンダーを食べる女性の心理を意識したと説明する。

「女性の方はブラックサンダーを食べるときに、割って食べたりするという印象がありました。一口で食べようとすると、歯型が残るのが恥ずかしいという方もいらっしゃいました。PICKSでは、そういった点を改善できる形態にしています」

   販売店のミニストップでは「とろっ」を中心に売り上げが好調だという。

仮称は「お姉サンダー」 開発担当者が抱えていた葛藤

   1月18日からローソンで販売を始めたのが、ナッツとフルーツを混ぜ込んだチョコレートバー「ゴロゴロ素材のMaico」だ。「アーモンド&ベリー」「くるみ&オレンジ」(各税込み54円)の2種類を販売。主に女性をターゲットに、通常のブラックサンダーより小さいサイズに設定した。

   しかし、「Maico」というネーミングを決めるのは、一筋縄ではいかなかった。村越さんは「お姉さまたちに捧げるブラックサンダーができたら」という構想から、当初は「お姉サンダーという名前を考えていました」と振り返る。

新商品「Maico」2種類。ナッツとフルーツを混ぜ込んでいる
新商品「Maico」2種類。ナッツとフルーツを混ぜ込んでいる

   ブラックサンダーシリーズの商品では、新味が出ると「芋けんぴサンダー」「コーンポタージュサンダー」のように、「〇〇サンダー」と名付けるのが恒例だ。村越さんは「〇〇サンダーではないものに挑戦したい思いは前からずっとありました」としつつ、「新しいブランドは認知が上がりにくく、なかなか挑戦できなかった」と葛藤も抱えていたという。

   助け舟を出したのが、マーケティング部商品戦略課の小川晴日さんだった。

「毎日の休憩時間やリラックスタイムなど『ちょっと頑張ろうかな』という時に食べていただきたいという思いがありました。最終的には『毎日食べたい私のマイチョコレート』から名前を取り、『マイコ』というネーミングにしました」

   そして、この商品名が思わぬ反響を呼ぶ。

「弊社のお客様相談室に『マイコ』という女性の方から『Maicoって、なんでマイコって名前なんですか?』という相談が来ました。自分の名前の商品が売っているのを初めて見ました、と。もしかしたら、全国のマイコさんは、ちょっと嬉しい気持ちになられたのかもしれません(笑)」(牧さん)

   「PICKS」「Maico」ともに一部コンビニでの先行販売だが、販売結果を見て本格販売を検討する。牧さんは「ブラックサンダーの力が衰えているとか、これ以上成長できない、と捉えているわけでは一切ありません。まだまだ成長できるブランドだと思っています」と看板商品に大きな信頼を寄せる。

   その上で「ブラックサンダーで培った食感の技術、素材との組み合わせを活かした、有楽製菓ならではのお菓子で、お客様にワクワクしていただける商品の開発を続けていきます」とさらなる新商品の展開に意欲を示した。

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)

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