その駅の名前に、人々は魅了され続ける――。ネット発の都市伝説「きさらぎ駅」の映画化が、2022年1月19日に発表された。主演は俳優の恒松祐里さん(23)が務め、今夏の公開を予定している。
「きさらぎ駅」とは2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)を起源とする都市伝説だ。初出は2004年1月、「オカルト超常現象板」の住人の書き込みが元ネタだ。それから18年の時を経て、今回映画化されることになった「きさらぎ駅」。
長い時間がたってもなお人々の関心を集め続けるのはなぜなのか? J-CASTニュース編集部は、2ちゃんねるの歴史に詳しいITジャーナリストの井上トシユキ氏に意見を聞いた。
当時の住民の反応は...
きさらぎ駅を簡単に説明すると、次のようなあらすじだ。
「オカルト超常現象板」に現れた「はすみ」というハンドルネームを名乗る女性。自身が乗っているとある路線の電車がなかなか目的の駅まで到達しないと書き込み、実況スレッドで他のユーザーに相談を開始する。
リアルタイムでのやり取りを踏まえ、彼女がたどり着いた駅は「きさらぎ駅」という無人駅。投稿者はその後消息を絶った――という展開で、そのミステリアスさから、いつしか都市伝説として語り継がれるようになった。
このエピソードが生まれた当時の2ちゃんねる住人の反応について、井上氏は以下のように語った。
「あくまで私の感触ですが、本気で受け止めている人半分、ネタとして受け止めている人半分といった感じでした。ただ、ネタとして受け止めている人も、疑ってかかったり話の腰を折ろうとする人は見受けられず、変な表現になるかもしれませんが『和やかに』話が進んでいきました。投稿者を煽ることなく、上手に話を引き出そうとするユーザーばかりだったのが印象的でした」
続けて、井上氏は当時の2ちゃんねるに、都市伝説が発生したり、それを許容したりする気風があったと指摘する。
「『オカルト板』や『VIP板』など、2ちゃんねるを遊びつくしてやろうという意識が強い人が集まる板には都市伝説が発生する傾向が強いと言えるでしょう。このような人たちにとってネタ話の投下とは『祭り』と同じなので、大量のユーザーが押し寄せて元の投稿に尾ひれがつき、都市伝説が加速的に形成されていくのです」
まとめサイト・YouTubeで再注目
「きさらぎ駅」は、その発生は2004年ながら、2014年頃からライトノベルや漫画などで題材として取り上げられるようにもなった。そして今回、ついに映画化も決まった。長い時を経て少しずつメジャー化した理由について、井上氏は以下のように推測する。
「1つは、近年すっかり定着した『まとめサイト』に『きさらぎ駅』が再録されるケースが出て来たというのがあると思います。また、これはここ2年ぐらいかと思いますが、まとめサイトに掲載された情報をまとめるYouTube動画が増えてきた点です。
YouTube動画ですから、意識して探さなくてもレコメンドとして目に触れる機会はありますので、そのような機会に遭遇した、今まで『きさらぎ駅』を知らなかった人が、新たに知るようになった結果、少しずつメジャー化が進んだと推測されます」
ただ、『きさらぎ駅』には、その「情報の出方」以外に、話そのものの完成度の高さが「ロングラン」の真の理由であると、井上氏は指摘する。
「まず、話がミステリー仕立てになっているという点が大きいです。加え、当時の他の2ちゃんねるのネタ話に見られた『一見さんを寄せ付けないお高く止まった感じ』がなかったのが大きいと思います。ゆえに、長い時間がたった今でも新規の客を入れることが出来るのだと思います。総じて言うと、『きさらぎ駅』という話の完成度が高いということでしょう」
当時のネットの空気が生んだ「2ちゃんねる文学」
また、2004年には「電車男」も2ちゃんねるで生まれた。井上氏は、当時が言わば「2ちゃんねる文学」の全盛期だったと指摘する。
「まさに、全盛期でした。さらに言うと、『きさらぎ駅』や『電車男』の前からネタ話の投稿はありました。これらの話を投稿していたのはあくまで私の感覚ですが、脚本家の卵や小説家志望の若者が、自らの作品の出来具合を試しているかのような雰囲気がありました。
当時、ネタ話の投稿は無数にあったため、話がゴールまでたどり着かずに破綻してしまうものも多数あったのですが、スレッドの住人に気に入られたものはそれらの人々によって立て直され、無事、完結に至るものもありました」
(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)