動物写真家・岩合光昭がトラに魅かれるわけ
こうして岩合さんによるベンガルトラの写真カレンダーが完成した。
「キヤノンのおかげで、カレンダーを制作できると聞いたとき本当に嬉しかったですね。作品は写真家だけではできません。スポンサーやデザイナー、印刷工場の協力があってできます。それがすべて今回は『カレンダーを作る』と言う目的のために、短時間で尽力してくれたと思います。本当に感謝しています。
特にトラのカレンダーを作れるというのが個人的にはすごく嬉しかったです。それだけトラに思い入れがあったので」
――岩合さんはトラに思い入れがあるとのことですが、トラのどんなところに魅了されたのですか。
「一言でいえば『美しい』ですよね。息をのむほど美しい。影の多い森の中にときどき光がさすことがあります。そこにトラが現れ、光が当たった時、毛並みが金色に輝く。 今回のカレンダー写真には含まれていないのですが、1971年に最初にトラを撮影しました。それ以来、トラに魅せられ何回も撮影したくなります。」
――「森の王者」と言われるような風格を感じるのでしょうか。
「ありますね。それは彼らトラ自身が一番よく知っているのではないでしょうか。
トラの柄は自然に紛れるので、すぐそばにいてもなかなかみつからない。それがトラが近づくと、猿や鹿や鳥が『トラだ!』と騒ぐんですよそんな時、ヒトが気付くよりずっと早くサルやシカやトリが『トラだ!』と騒ぐのです。『キャッキャッキャッキャ』とか『ヒィヒィヒィヒィ』とか、森に響き渡る警戒音を鳴らして。
こうした鳴き声が、トラの動きに合わせて近づいてきます。トラが来ている...... こちら は息をひそめます。
そして森の緊張が極度に達すると、トラが現れる。観光客も含め僕たちも興奮する瞬間です。本当に美しいなと感じます」
――トラの外見だけでなく、トラが持つオーラなどにも魅了されたのですね。
「そうですね。しかも僕、寅年生まれなので(笑)
事務所の場所も『虎ノ門』なんですよ。それが理由で3,4年前ここに事務所を構えました。 この前にいた場所も鷹匠町っていう動物の名前につくところにいました。動物の名前がつくところは良いところだと思っています」
――事務所の住所も動物ゆかりとのことですが、岩合さんはなぜ動物を撮り続けているのでしょうか。
「やっぱり『いのち』ですね。動物ですから、動くことが生きること。動くことの美しさが撮りたいテーマの一つです。
猫を撮っていても感じます。
ヒトはなぜネコを好きになるのかを考えた時、ネコが野生を持っているからだと思う のです。自然を体の中に体現していることだと思うのです。例えば自分の体の何倍も高いところに飛び跳ねるようなときにすごいと思うじゃないですか。実はその体の動きって、僕たちも本来持っているものだと思います。どこかに忘れてきてしまった。だからこそ、ネコの動きを見てはっとさせられることがあるのではないかと。これだけ人を魅了しているのは、ただ可愛い存在という理由だけではないと思います」