平成はノスタルジーの対象なのか... 違和感噴出した「平成レトロ」、名付け親の胸中は

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   「平成レトロ」。今年一年、日本のメディアを駆け巡ったワードだ。チェキ、ルーズソックス、カセットテープなど平成初期に流通したアイテムが若者の間で再流行する中、これらを紹介する言葉として使われた。

   しかし、テレビで特集が組まれるたびに、ツイッター上ではツッコミが続出。「平成がレトロはおかしい」「もっと違う言い方あるやろ」と辛辣な声が相次いだ。

   「名付け親」は、この状況をどう思っているのか。J-CASTニュースは平成文化研究家の山下メロさん(40)に胸の内を聞いた。

  • 「平成レトロ」への辛らつな声、名付け親はどう受け止める?(2021年12月撮影)
    「平成レトロ」への辛らつな声、名付け親はどう受け止める?(2021年12月撮影)
  • 山下さんの事務所にある「ファンシー絵みやげ」コレクション(2021年12月撮影)
    山下さんの事務所にある「ファンシー絵みやげ」コレクション(2021年12月撮影)
  • 「平成レトロ」への辛らつな声、名付け親はどう受け止める?(2021年12月撮影)
  • 山下さんの事務所にある「ファンシー絵みやげ」コレクション(2021年12月撮影)

捨てられる「平成」に危機感抱き考案

   小雨降る2021年12月某日、取材場所に選んだ都内のファミリーレストランに山下さんは現れた。頭に被っていたのは「h」と刺繍された黒いキャップ。平成初期に日本で流行した「dj honda」のアイテムだ。

   1981年生まれの山下さんは、「ビックリマンの外れシール」など、小さい頃から変わったものを集めることが好きだったと話す。大人になると、80〜90年代のアイドルCDやラジカセ、文房具などの収集に夢中になる。今から10年ほど前には、昭和末期〜平成に地方の土産店で売られていた、柔和なタッチのキーホルダーの魅力に惹かれる。

「ネットには情報がないし、今は観光地にもあまり売ってない。普通に集めていたのでは、到底間に合わない。これは、守るべき貴重な『文化』だと思いました」

   強い義務感に駆られ、勤めていた会社を退職。キーホルダーを「ファンシー絵みやげ」と命名し、「ファンシー絵みやげ収集家」として活動を始めた。都内にある山下さんの事務所には、これまで集めた約1万点のファンシー絵みやげが飾られている。

   平成初期のアイテムも精力的に収集していた山下さん。4年前、ある危機感を抱く。

「世間では『平成?今じゃん』と蔑ろにされて、アイテムがどんどん捨てられていました。平成のものを大事にしよう、という文化がなかったんです」

   どうすれば、平成のアイテムが捨てられずに済むのか――。考案したのが、「平成の中にある懐かしさ」を意味する「平成レトロ」という言葉だった。山下さんは「平成レトロ」の言葉とともに、平成初期に流通した商品やサービスの魅力を、メディアを通じて伝えていくことになる。

「レトロは昭和に返して!!」

   元号が「平成」から「令和」になって2年、言葉が日の目を見る。

   ルーズソックスやチェキ、カセットテープなど平成初期に流行したアイテムや、ギャルたちが親しんだ「デコ文化」が若者の間でリバイバル流行。これらの再流行をメディアが紹介する際に「平成レトロ」という言葉を使ったのだ。情報・ニュース番組ではたびたび平成レトロ特集が組まれ、山下さんも「平成レトロの専門家」としてテレビ出演を重ねた。

   11月には日経トレンディ「2021年ヒット商品ランキング」4位にランクインした「平成レトロ」(掲載名は「昭和・平成レトロブーム」)。しかし、この言葉に対するネットの反応は辛辣だった。

「平成がレトロはおかしい」
「もっと違う言い方あるやろ」
「レトロは昭和に返して!!」

   ツイッター上では「平成レトロ」というネーミングに対する違和感の声が、日々相次いだ。テレビ特集の影響で「平成レトロ」という言葉がツイッターのトレンドに入る機会も多かったが、いずれも目立っていたのはネーミングに対する否定的な意見だった。

   平成レトロの「名付け親」山下さんは、こうした声をどう受け止めたのだろうか。

「平成はみんなが生きてきた時代。誰にでも語る資格があると思います。『平成レトロが嫌だ!』と思ったら、好きに意見を言っても何の問題もないです」

実はレトロじゃなかった可能性も...幻の「平成〇〇」

   意外にも寛容な姿勢を見せた山下さん。「平成レトロ」という言葉が違和感を持たれる理由は大きく分けて2つある、と指摘する。

   1つは「言葉の読み違い」だ。「令和になったばかりなのに、平成をレトロ扱いするとは何事か、という指摘が多い印象です。ただ、あくまで『平成の中の懐かしい部分』が平成レトロ。平成全体がレトロと言っている訳ではありません」と説明する。

   2つめは「レトロ」が気に食わない、というものだ。過去の時代の「なつかしさ」を回顧する際、大正時代ならば「大正ロマン」、昭和時代ならば「昭和レトロ」という言葉が一般的に用いられてきた。この流れで行けば「平成」の後には別のカタカナが入るべき。それなのに、昭和と同じ「レトロ」でいいのか――。そんな違和感の声が多いという。

   自身も「平成レトロは昭和レトロと一緒だから、正直どうなんだろうと思っていた」と話す。実は4年前の「平成レトロ」命名の際には、他の名称候補として「平成ヴィンテージ」「平成ノスタルジー」も検討していたという。

「平成(だけど)ヴィンテージ、平成(だけど)ノスタルジー、みたいに、ぱっと見アンバランスだけど、実際見たら懐かしい、と思える言葉を考えていました」

   それでも、ヴィンテージは「言われた方からすればややきつい表現になる」、ノスタルジーは「モノよりも気持ちを指している印象がある」として採用せず。「馴染みのある言葉を流用して、意味を伝わりやすくするのが重要」と、最終的には昭和と同じ「レトロ」をチョイスしたという。

もし「平成レトロ」が廃れたら...

   ネット上では「平成サイバー」「平成ポップ」といった、「平成〇〇」の代替案もよく挙がっている。ただ、こうした「平成〇〇」の候補には「あくまで『平成時代』に対するイメージでしかない」ものが多いと指摘する。「例えば、平成サイバーと言ったら、ルーズソックスにサイバー要素はない。サイバーではないものが、そこからこぼれ落ちてしまうんです」

   平成レトロブームを取り上げるメディア関係者の心情も推察する。「平成サイバーとか、平成ポップにすると、扱えるものに制限が出てしまう。何かタイトルをつけるならば『平成レトロ』が使いやすいのかもしれません」

   ただ、これだけメディアに取り上げられても、自身の「平成レトロ」という言葉への思い入れは、さほど大きくないのだという。

「名前を定着させたいというより、平成の文化を残したいというのが第一です。その思いだけでやっています。だって、『平成レトロ』で商標が取れるわけないじゃないですか(笑)。生みの親として儲けよう!とか一切ないです。言葉を取り合おうというのもない。どんな言葉であれ、平成初期のアイテムに注目が集まって、みんなが捨てないようにして、思い出してくれたら、それでいいんですよね」

   平成が遠ざかるにつれて、回顧する時代も進んでいく。「平成レトロ」という名前が廃れたら、山下さんはどうするつもりなのだろうか。

「言葉が変わったら、のっかりますよ。喜んでそれを使います(笑)」

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)

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