栃木県の人気和菓子店が販売した「クリスマス和菓子」が、代引き決済で注文した注文者から受け取りを拒否された。
店に返送された和菓子はボロボロ。電話をかけても、メールを打っても、注文者からの返事はなかった。「自らの手で廃棄するのがどうしようもなく辛い」。落胆する店主の心を救ったのは、別の購入客から届いた一通の手紙だった。
「作り上げたお菓子が何の役にも立てないまま...」
栃木県真岡市にある和菓子店「御菓子司 紅谷三宅」。店の売りは「次世代和菓子」と名付けた、個性的でかわいらしい見た目の和菓子だ。店主の三宅正晃さんが作る動物やキャラクターの和菓子は、SNS上でもたびたび話題になる。
今冬はサンタやトナカイ、クリスマスツリーなどをモチーフにした「クリスマス和菓子」を、通販サイトで受注販売した。木型を使用せずに手作業だけで仕上げる「練り切り」という生菓子で、他の和菓子よりも作るのに手間がかかる。
普段の商品にはつけない、メッセージカードもつけた。「たとえひとりの方でも、クリスマスを楽しんでいただけたらと思い、店の若女将が書きました」。店主の三宅さんは2021年12月27日、J-CASTニュースの取材に話す。
11月下旬に販売を開始すると、注文が殺到。商品を購入できない人もいた。12月になり、全国の注文者へ向けて発送された。だが、クリスマスイブ前日の12月23日、商品の一つがそのまま店に戻ってきた。代引き決済で注文を受けたが、注文者から受け取りを拒否されていた。
若女将が書いたメッセージカードは、包装紙とリボンの間に挟まったまま。箱を開けると、度重なる再配達で和菓子はボロボロになっていた。商品は捨てざるを得なかった。
「自分達が時間をかけて作り上げたお菓子が何の役にも立てないまま、本来必要としていたお客様にも届くことなく、自らの手で廃棄するのがどうしようもなく辛いです」
三宅さんは24日、店のツイッターで思いを吐露した。
「たかが一箱と思われてしまうかもしれませんが...」
なぜ、商品を受け取ってくれなかったのか。三宅さんは注文者と通話を試みたが、電話は着信拒否に設定されていた。メールも送ったが、返信はなかった。
三宅さんは取材に「連絡が取れなくても致し方ないですし、注文者の方に負の感情は抱いていません」と話す。一方で「最初はきっと純粋に欲しくて注文したと思うんです。でも、どうして...受け取れない理由くらいは、聞かせてほしかったなと思います」と複雑な胸中も明かした。
代引き決済で注文を受けた商品が返送されるケースは、年に2~3回発生するという。ただ、三宅さんにとってクリスマス和菓子への思い入れは特別だった。
「高い倍率を勝ち抜いて、注文していただいた方なので、私としても和菓子作りに手を抜きたくありませんでした。商品を受け取っていただけなかったのは、苦しかったです。競争に勝てなかった人にも、申し訳が立ちません」
クリスマスイブの夜は、日付が変わる直前まで、店頭販売向けのクリスマス和菓子を作った。「どうしても、受け取っていただけなかった理由を知りたい。でも、どうすることもできない。だったら、残ってしまった気持ちをだれかに差し上げたい。最後のひと箱は、手間がかかってでも作りたいという気持ちがありました」
三宅さんは同日、ツイッターで次のような思いを口にしている。
「たかが一箱と思われてしまうかもしれませんが、本来は誰かを幸せにするはずだったお菓子です。例え一個のお菓子でも真剣に向き合い、思い入れがあります」
「皆様がサンタさんであり、最高のクリスマスプレゼントです」
翌日、店のポストをのぞくと、一通の手紙が届いていた。クリスマス和菓子を注文した、別の購入客からのメッセージだった。
「いつも美味しいお菓子で幸せな気持ちにさせていただき、ありがとうございます。そんな素敵なお菓子と、若女将のメッセージカードに心温まり、手紙を書かせていただきました。ずっと気になっていた三宅さんの練り切りを最近になって、やっと頂くことができて、嬉しく思っております。食べてしまうのがもったいないほどの可愛さと、幸せな気持ちになる美味しさに、手間暇かけて、丁寧に作られているお菓子だと感じます。お店が近くにあったら、毎日でも通いたいくらい大ファンになりました。いつか必ずお店に伺いますね!!その日を心より楽しみにしております」
涙が止まらなかった。ツイッター上の購入者からも、メッセージカードや包装紙を捨てないで取っている、という声が寄せられた。「なかなか表に出ない立場の職業ですので...直に感謝のお声をいただくと、心に来るものがありますね」。三宅さんはその夜、ツイッターで「私からすれば皆様がサンタさんであり、最高のクリスマスプレゼントです」とつぶやいた。
今回の件を受けて、来年からは通販での代引き決済を廃止する考えだという。「自分が作ったお菓子を自らの手で捨てさせてしまうのは、従業員の精神衛生上よくないと思っています。注文数は減るかもしれませんが、守るべきものは守りたいです」と話す。
正月に向けて受注した「迎春上生菓子」は年内に発送される。「みなさんに喜んでいただきたい、笑顔になってほしいお菓子です。写真を撮ったり、SNSに載せてくれるだけで、私としては心が救われます。家族団らんで、新しい年を迎えてほしいと思います」
(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)