崩壊30年も...なお消えぬ「ソ連の残影」 プーチン体制が象徴するトラウマとプライド

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日本とのかかわりは?

――ソ連からロシアになっての30年で、日本との距離感はどう変わったでしょうか。

「ロシアの若者は日本のアニメ好きが多く、コスプレイベントも盛んですね。日本の側ではフィギュアスケートの存在感が大きいと思います。フィギュアではロシア勢が強いですから、それがきっかけでロシアに興味を持つ若い女性が増えていると思います。若い世代はかなり交流が増えているでしょう。
   観光や留学においてもソ連時代は軍港で外国人は立入禁止だったウラジオストクが開放され、12年にはAPEC首脳会議の開催地だった同市のルースキー島に連邦極東大学の新キャンパスが完成、日本のすぐ近くで留学に行けるような大学もできました。ネットの普及も大きくてダイレクトにロシア国内がわかるようになり、ソ連時代の、ベールに隠された『特殊な国』ではなくなりました。ちなみに本田圭佑選手が在籍していたサッカークラブのCSKAモスクワはソ連陸軍のクラブが発祥で、今でもロシア国防省のクラブです。ロシアに行くと結構身近に軍関係の博物館があって退役軍人のおじさんから話が聴けたりもします」

――その一方で、北方領土という紛争を抱えているのも事実です。

「政治的には冷戦期も現代も、日露は双方を大きな軍事的脅威とする状況にはありませんでした。仮想戦記レベルではたくさんありますが(笑)。1956年の日ソ共同宣言で戦後処理に一段落がつき、残ったのが北方領土問題です。ロシアが混乱していた90年代には日露双方がある程度歩み寄って柔軟にアイデアを出しあえた時期があり、この頃に解決案のオプションはほぼ出尽くしています。あとは政治当事者の選択になると考えますが、『大国』プライドを国民からの支持基盤とするプーチンにとって、領土を渡すというのは正面から話し合えることではないと思われます」

――ソ連は第二次大戦の戦勝国でもあり、世界ナンバー2の時代もありました。その歴史と崩壊後のギャップがロシア人には複雑なコンプレックスにもなっているようですね。

「酔っ払いのエリツィン時代の苦い記憶に比べればプーチンは強権的だが真面目でよくやっている、と中高年のロシア人は思っているようです。一方、若い世代は嫌いではないけどなんとなく嫌だな、という感覚でしょうか。
   プーチンが信奉する人物の1人にイワン・イリーインという20世紀前半に生きたファシストがいます。イリーインはロシア革命で亡命しスイスで客死しましたが、プーチンは彼の遺体をわざわざスイスからロシアに改葬したほどです。そのイリーインの影響も受けて独裁をかなりポジティブに捉え、強力な指導者への力の集中が必要と確信しつつ、他方で市民社会をほとんど信用していない。『院政』を敷く可能性はありますがプーチンの死までこの体制は継続するでしょう。
   また国際的にはロシアとしては西側に譲歩してきたつもりでの現状なので、欧米と協調するモチベーションは低いのです。しかしそれでは経済的にジリ貧の情勢が続きますから、方向転換をしなければいけない時が必ず来ます。ロシア人は戦略的思考が得意ですし、そうなればプーチン的な政治システムも、近いうちでなくとも過去のものになるのかなと私は思います」
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