崩壊30年も...なお消えぬ「ソ連の残影」 プーチン体制が象徴するトラウマとプライド

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ロシアの理想は「ヤルタ体制」

――プーチン体制、とりわけ第二次政権ではロシアはクリミアやシリアなどで軍事介入も行い、現在もウクライナ国境への兵力集結を進めていることが伝えられ、周辺諸国への強硬姿勢も目立ちます。小泉さんの著作で言及しているように、通常戦力による戦闘一辺倒ではなく民兵組織やサイバー部隊による「ハイブリッド戦争」で勢力を拡張しようとしているようにも見えます。

「ロシアにとっては、ソ連時代のヤルタ体制のような国際秩序が最も心地よいのです。大国の主権を重んじて相互に内政には干渉せず、かつ少数の大国が国際秩序を主導し特権的地位を得ている。ソ連もその一角で超大国として東欧や連邦内諸国に対してプレゼンスを発揮できた時代だったのだ、と。しかし冷戦が終わっただけでなくソ連が崩壊してしまった上、東欧諸国の独立と民主化でロシアにとっての国防の前線が後退します。例えば2004年にNATOに加盟したエストニアとロシアの国境は、ロシア第二の都市サンクト・ペテルブルクから約150㎞しかありません。さらに西側諸国は人権問題でロシアやその友好国の国内体制にまで注文をつけてくる。前出のようなロシアの古典的な国家観にはこうした西側の姿勢も馴染みません。
   したがって、第二次大戦後せっかく大国で協調して安定的な秩序を作っていたのに(冷戦終結で)アメリカがそれを壊してしまった。アメリカの一極支配に作り変えられてしまった上、むしろ西側はつけ込んで人権・ジェンダー平等などの価値観を掲げてロシアと周辺諸国に浸透しようとしてくる。『舎弟』だった東欧諸国はNATO加盟も相次いであちら側に行ってしまうし、ソ連崩壊後の30年間ずっと西側に浸食されてきた、不利益を押し付けられてきたという言い分もロシアにはあるのです。紛争地域をめぐって『西側が裏で反露的な民主化勢力を煽動している』といった陰謀論的な言動がロシアの政治・軍事指導部から出るのはこのような背景もあります」

――今のロシアにとっての旧ソ連諸国とは?

「今でもロシア語が通じます。特にベラルーシやウクライナはルーシ民族としてのルーツを共有する中です。とりわけウクライナの首都キエフがこのキエフ・ルーシの都でもあった。陸続きでルーツを同じくし、ソ連時代の名残もあってビザなしで行ける国々なのに、別の国になっていて、しかも度々ロシアからの自立を企てている。これがロシア人としては受け入れがたく、納得できない感情があるようです。
もちろん現地では親露派もいればそんなものは余計なお世話だという人々もいるわけですが、ソ連崩壊後のこのような経緯がロシアと旧ソ連諸国をめぐる紛争にも影響しています。
   ただ、ロシアが軍事力を行使するのはこれまで旧ソ連領内や非国家の戦闘勢力を相手にする場合に限られていて、旧ソ連の域外では抑止力として誇示するにとどめています。ヨーロッパ正面でもソ連時代とは逆転してNATO軍がロシア軍の実数を圧倒していますので、その分ロシアの戦術核への依存が強まっている情勢です」

――冷戦の終結で東欧諸国の民主化も実現しましたが、ロシアから見るとそのような面もあるのですね。

「かといってまたアメリカに張り合えるかというとそれはできません。ソ連はまがりなりにも科学は最先端で、経済も日本と西ドイツに抜かれるまでナンバー2だったのですが、今では(中国の台頭などで)さらに経済的地位が低下しています。
   また、ソ連経済というのは革命から崩壊までずっと戦時経済だったとも言えます。戦争に経済が従属するために、口紅を作る工場でも戦時に備えて銃弾を製造できるラインがある、といったことがありました。ソ連の名残で巨大だけど鈍重な経済を抱えているので、軍需産業でも同じような企業が乱立します。例えば攻撃用ヘリコプターでも同時にKa-52・Mi-28N・Mi-35Mと3機種を同時に導入したりと。加えて企業の統廃合は失業者を生みますのでなかなか進まない。非効率な形態が続いているのですが、だからこそ同じような兵器が同時期に開発・導入されるという趣味的な面白さもあり、欠陥でもあります」
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