ソニー生命保険(東京都千代田区)の社員が海外子会社の口座から約170億円をだまし取った詐欺事件は2021年12月21日、米連邦捜査局(FBI)が被害金を全て差し押さえた。
被害金は暗号資産「ビットコイン」に変換されていたため、レートの増価によって回収時には約207億円になっていた。被害金を返還する手続きが進められているが、ネット上では「増えた37億」の行方に注目が集まっている。弁護士に見解を聞いた。
「深くお詫び申しあげます」
ソニー生命の発表や各報道によれば、この社員は11月29日、詐欺容疑で警視庁に逮捕された。
5月に英領バミューダ諸島にあるソニー生命保険・海外連結子会社「SAReinsurance Ltd.」の銀行口座から、約170億円(約1億5500万ドル)を米カリフォルニア州の口座へ不正送金した疑いが持たれている。
警視庁がFBIの協力を得て捜査を進めると、被害金は送金直後にビットコイン3880枚に変換されたとわかった。FBIが全額を押さえ、被害金の返還手続きが進められているという。
また警視庁は12月21日に被告を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿罪)の容疑で追送検した。同日、ソニー生命保険が公式サイトでこのように伝えている。
「日頃より信頼をお寄せいただいているお客さまおよび関係者の皆さまに、多大なるご心配をおかけしますことを、深くお詫び申しあげます。このような不正行為を二度と発生させないように、役職員のコンプライアンス意識の更なる向上と子会社管理体制の一層の強化に努めてまいります」
犯行から半年以上が経過したことでビットコインのレートは大きく変動している。その影響で生じた30億円以上の余剰金がどのように処理されるのかについては明らかになっていない。
事件をめぐる各社の報道を受けてネット上では、37億の行方に関心が寄せられている。
弁護士に見解を聞いた
「弁護士法人 天音総合法律事務所」の正木絢生代表弁護士は23日、J-CASTニュースの取材に、前提として「本件は多くの国が関連する事件であり、どこの国の法律が適用されるかによって異なる結論になる」と断りつつ、発生した利益がアメリカから日本に渡され、日本の法律で処理する場合について次のように述べた。
「今回は、ソニー生命の子会社の口座からカリフォルニアの口座に移されたドルが、ビットコインに変換されていますが、この変換は『犯罪被害財産を隠匿する行為』にあたり、組織財産防止法による没収の対象となります。
没収が行われた場合、全額について、まず国庫に帰属します。その後、ソニー生命に被害回復給付金支給制度によって被害金が返還されることになります。その場合に損害として返還される範囲は、失った財産の価値として検察官が定めた金額です。
そうすると、ソニーの子会社から送金された1億5500万ドルの価値、つまり約170億円の範囲に限られます。返還されなかった部分については最終的に国庫に帰属することになるでしょう」
被害金の送金先が米カリフォルニア州であることから、正木氏は「カリフォルニアで行われた事件としてアメリカの法律で処理される可能性もあるかもしれません」とも補足した。
仮に、利益が最終的にソニー生命保険へ渡った場合は「益金」として課税されることになるという。正木氏は下記のように説明した。
「法人の場合、課税の対象となるのは,益金から損金を控除した金額です(法人税法第22条)。法人に入ってきたお金は全て益金に含まれるので、ソニー生命に30億円が戻るのが確定した場合、その時点で課税の対象になるのです」