2022年2月に開催される予定の北京五輪・パラリンピックに外交使節団を派遣しない「外交的ボイコット」について、岸田文雄首相は21年12月21日に開いた記者会見でも態度を明言せず、判断を先送りした。
与野党問わず中国の人権状況を懸念する声が相次いで出ており、外交的ボイコットを求める声も多い。自民党内では、今回の岸田氏の発言を「ガッカリ!」と公然と批判する声も出た。ただ、外交的ボイコットをめぐる国内世論は割れている。世論の動向も見極めながら判断することになりそうだ。
「今しばらく、しっかりと諸般の事情、総合的に勘案して...」
岸田氏の会見は、臨時国会が閉会したことを受けて開かれた。北京五輪の対応について問われた岸田氏は次のように答弁し、外交的ボイコットに踏み切るかは明言しなかった。国会論戦での従来の見解を繰り返したとも言える。
「日本政府の対応としては、適切な時期にオリンピック・パラリンピックの趣旨や精神、あるいは我が国の外交の観点、様々な点を勘案して我が国の国益に照らして判断をしていく、こうした方針で臨んでいきたい。今しばらく、しっかりと諸般の事情、総合的に勘案して判断していきたい、このように思っている」
外交的ボイコットは、自民党の高市早苗政調会長、国民民主党の玉木雄一郎代表、日本維新の会の維新の馬場伸幸共同代表らが主張。立憲民主党の泉健太代表も12月10日の記者会見で、
「外交的ボイコットが『ものすごく影響を与えるので、できないんだ』ということではなく『十分にあり得る』という姿勢で検討を最終的にしていただきたい」
と述べ、前向きな検討を政府に求めている。共産党は13日、志位和夫委員長名で「中国に人権抑圧の是正と五輪憲章の順守を求めよ――五輪開会・閉会式への政府代表の不参加は当然」と題した声明を発表している。公明党は現時点で態度を明確にしていない。
ただ、自民党は党内でも温度差がある。茂木敏充幹事長は7日の会見で、米国が外交的ボイコットを決めたことへの見解を求められ、「コメントは控えたいと思う。北京冬季大会がオリンピック・パラリンピックの精神・理念にのっとって、平和の祭典として開催されることを期待している」と述べている。
判断先送りすると国益を損なう懸念
そうした中で、自民党の佐藤正久外交部会長(参院議員)は12月21日、首相会見の様子を伝える記事をツイッターで引用しながら
「ガッカリ!ある意味、態度を表明している韓国の方が立派。日本外交、大丈夫か?」
と、失望を表明した。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は12月13日に訪問先のオーストラリアで行った記者会見で外交的ボイコットについて問われ、「検討していない」と明言している。この発言を念頭に皮肉を込めたツイートだ。
佐藤氏が「日本外交、大丈夫か?」とツイートしたように、態度表明が遅れることが国益を損ねるとの危機感もくすぶっている。松野博一官房長官の12月22日の記者会見では、
「米国や英国など各国が外交的ボイコットを表明する中で、日本が明確な意思表示をしてないことで、国際社会において『日本は中国の人権問題に真剣ではない。弱腰なのではないか』と受け取られかねない、国益を損なうような懸念もある」
という質問も出た。松野氏は、10月の電話首脳会談や11月の電話外相会談で香港や新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権問題について問題提起をしたり「深刻な懸念」を表明したりしたことに言及した上で、
「引き続き国際社会が緊密に連携をして中国側に強く働きかけていくことが重要であると考えている」
と答弁。判断先送りが国益を損なうか否かについては直接の反応を避けた。
世論調査の結果は三者三様
報道各社が12月18~19日に行った世論調査では、三者三様の結果が出ている。朝日新聞の調査では、「外交ボイコットをするべきだ」35%に対して、「外交ボイコットはするべきではない」が43%。「その他・答えない」も22%いた。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)による調査では、「すべきだ」45.4%に対して「すべきでない」が44.1%と拮抗(きっこう)した。「他」も10.4%いた。毎日新聞と社会調査研究センターが12月18日に行った調査では、「外交的ボイコットをすべきだ」が52%に対して「外交的ボイコットをする必要はない」が29%。賛成派が過半数を占めた。「わからない」も19%いた。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)