20歳の時に事故で両足と右手を失い、YouTubeなどでの発信を続けている山田千紘さん(30)は最近、小中学校で講演する機会を立て続けに得た。学校講演は小中いずれも初めての経験。体についての質問が数多く出たことが「めちゃくちゃ嬉しかった」という。子どもたちに伝えたかったこととは。山田さんが語った。
【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)
疑問に思ってもらうことが、僕にとっては理解を深めてもらうための第一歩
東京都内の小学校で先日、講演させてもらいました。低学年と高学年の2回、それぞれ40分ずつ時間をもらいました。義足や義手を見せながら、僕が楽しい人生を送ることができている理由や考え方について伝えました。
僕が一方的に話すより、質問を受けて答えていくことに半分以上の時間を割きました。「体のこと、何でも聞いていいよ」と伝えると、子どもたちは積極的に手をあげてくれました。
「手の感覚はあるんですか?」という質問がありました。「幻肢痛」の話をしました。僕は右手がないけど、指の感覚がまだ残っています。切断した右腕の中に指が隠れている感覚。その「指」がずっとビリビリしています。足もそうです。だから、1年365日ずっと、無い手足がしびれています。いろんな薬を試したけど、「これは治るものじゃない、自分の体なんだ」と受け入れて付き合っています。そんな話をしました。
「なぜ足の長さが違うの?」とも聞かれました。逆に「なんでだと思う?」と考えてもらいました。最初から答えを言うのではなくて、一度考えることで、より興味を持ってくれるんじゃないかと思ったからです。
いくつか意見を聞いた後で、足の長さが違うのは「切断した場所が違うから」と答えました。僕は交通事故に遭った時、左足は膝を残すことができない状態だったけど、右足は膝の機能が残っていました。だから、足を切断する場所が変わったんです。
「腕の先はなぜ丸いんですか?」という質問もありました。僕もはっきり分からないけど、切ってもらったらこうなっていたと答えました。
この体について不思議がって聞いてくれる子が多かったです。僕にとってはめちゃくちゃ嬉しかった。
冬の寒い中だったけど、半袖・半ズボンの服装で講演しました。それは子どもたちに、この体を見てもらいたいから。そして見慣れてほしいからです。ほぼ全員が、義足で歩く人を見たことがなかったと思います。
この体を見たら、疑問だらけだと思います。疑問に思ってもらうことが、僕にとっては理解を深めてもらうための第一歩。疑問がなければ、分かってもらうことはなかなかできません。だから気になったことは何でも聞いてほしかったし、実際に声に出して聞いてくれた。それは僕を見てくれていることに繋がります。体についての質問がたくさん出て、本当に良かったなと思いました。
限られた時間だったけど、「みんな堂々としていればいいんだよ」ということは伝わったんじゃないかな。難しいことじゃないと思っています。大事なのは、人と比べず、自分らしくいること。僕は手足がないことを、自信をもって受け入れています。だからこそ、みんなにこの体を見てもらいたいと思えます。
この体になった事には何か意味があるはずだ
小学校講演の少し前には、神奈川県内の中学校でも講演する機会をいただき、僕の経験や大切にしていることの話をさせてもらいました。終わった後、全校生徒約800人全員からの直筆メッセージカードを送ってもらいました。みんなびっしり書いてくれていました。こちらはその一部です。
「山田さんの明るさを感じ取ることができ、私もこれから受験など困難も頑張り、乗り越えようと勇気をもらうことができました」
「いつも色々なものから逃げて言い訳していましたが、それは意味がないことだと教えてもらいました。これから少しずつ自分に正直になろうと思います。本当にありがとうございました」
僕が子どもたちに対してできるのは「引き出し」の提供です。社会を知り、考え、人や物事を見る視点を増やしてあげること。この手紙を読むと、子どもたちは新しい「引き出し」を得られたんじゃないかと思えました。障害を知ることもそうだし、「手足が3本なくなっても諦めずに挑戦し続けたら、胸を張って生きられるんだ」ということも感じてくれたら嬉しいです。
僕は手足を失った直後「人生終わった」と思ったけど、だんだんと「まだ残っているものがある」と気付きました。残った体と左手を使えば、自分次第でまだまだ何でもできます。「みんなは手足4本があるなら、もっともっと何でもできる。失敗を恐れず挑戦してみてください」。そんなことも子どもたちに伝えました。
小中学校の講演は今回が初めてでした。機会を頂けるならじゃんじゃん呼んでほしいです。どこまででも行きたいです。
僕にできることって、そんなに多くないかもしれません。でも、自分にしかできないこともあると思っています。この体になった事には何か意味があるはずだと、僕自身も思いたい。経験を生かせるなら、僕の話を聞いた人、見た人にとって、何かが変わるきっかけになってほしいです。勇気や希望が持てたとか、僕と出会ったことで前向きな変化が起きてくれれば良いなと思っています。
(構成:J-CASTニュース編集部 青木正典)