日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(67)が2021年12月6日、日本外国特派員協会が開いた記者会見にオンラインで出席した。ゴーン被告は役員報酬を隠したとして金融商品取引法違反罪などで起訴され、保釈中の19年12月にビジネスジェット機で国外逃亡。逃亡先のレバノンから1時間40分にわたって持論を展開した。
記者の「自らの件が日本とレバノンの関係に影響を与えると思うか」という質問に対して、ゴーン氏は「影響すべきではない。これは法的問題だからだ」などと主張。自らの件が政治問題や外交問題化すれば、身柄引き渡しの議論に発展することを懸念しているとみられる。
ケリー被告は「明らかに犠牲者」
ゴーン被告は、「私にとっての地獄は、日本で行われている人質司法のシステムだ」と主張。保釈後も家族との接触が制限され、裁判も長期化しそうだという見通しを知らされ、「公平な裁判への一切の希望を失った」として、日本からの逃亡を実行の4日前にあたる12月25日に決断したことを明らかにした。
元代表取締役のグレッグ・ケリー被告(65)については「無実」「明らかに犠牲者」だと主張。当時の西川広人社長(68)ら日本人幹部も「一緒に刑務所に入るべき」だとした。
記者からは、
「自らの件が日本とレバノンの関係に影響を与えると思うか」
という質問も出た。
日本とレバノンの間に犯罪人引渡条約は結ばれていないが、日本政府の要請に応じる形で国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)がゴーン被告に対する「国際逮捕手配書」(赤手配書)を出し、レバノン政府は20年1月に受け取っている。ゴーン被告は手配書の取り消しを求めている。こういった経緯を念頭に置いた質問だとみられ、ゴーン被告は、自らの事案は「よくある例」だとして、
「(両国関係に)影響すべきではない。これは法的問題だからだ」
「国家レベルで行うべき話ではない。法的ベースのみで行われるべき話だ」
などと主張。ゴーン被告はフランス、レバノン、ブラジルの3つの国籍を持っており、
「レバノンは、問題はあるかもしれないが民主国家で、法の支配がある。自国民を他国に引き渡したりはしない。ありえないことだ」
とも述べた。
ゴーン被告は、日本の検察が捜査資料をレバノン当局に送り、レバノン国内で裁判を受けられるようにすべきだとも主張。ゴーン被告によると、「日本は、これらの要望を2年間にわたって無視し続けている」。その上で、改めて
「これが2国間に問題を作り出すとは思っていない。政治的問題になることが想定されていないからだ。これは法的問題だ」
などと述べた。
レバノン潜伏の日本赤軍と比較されたゴーン被告は...
ゴーン被告が司会者の発言に反論する場面もあった。司会者は、レバノン政府が日本赤軍メンバーを引き渡さなかった歴史(編注:日本赤軍は1970年代からレバノン国内を拠点にしてきたが、メンバーが逮捕されたのは97年。そのうちの大半が00年に国外退去になった)に言及し、ゴーン被告が「安全な場所にいる」と皮肉った。
これに対してゴーン被告は、日本赤軍と比較されたことへの不快感を隠さなかった。
「日本赤軍は日本人で、完全に違う話だ。日本人がレバノンに隠れていた話だ。ここでしているのは、レバノンに住んでいるレバノン国民の話で、公正な裁判が受けられるように、捜査資料を送るように求めているところだ」
ゴーン被告の逃亡問題では、大久保武・駐レバノン日本大使が20年1月7日にアウン大統領と会談している。日本外務省の発表によると、大久保氏が
「我が国として重大な関心を有する本件について、レバノン政府が事実関係の究明を含め必要な協力を行うよう要請」
したのに対して、アウン大統領は、この件についてレバノン政府は全く関与していないとした上で、
「レバノンは日本との関係を重視しており、日本側からの協力要請に対しては全面的な協力を惜しまないことを約束する」
などと述べたという。
ゴーン被告の記者会見は著書の日本語版「世界で勝てない日本企業 壊れた同盟」(幻冬舎)出版に合わせて開かれた。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)