「撮り鉄の皆様へ告知です」
こんなキャッチコピーのもと、2021年11月10日に「撮り鉄」と呼ばれる車両の撮影を楽しむ鉄道ファン向けの会員サービス「撮り鉄コミュニティ」がはじまった。手がけるのはJR東日本スタートアップ(東京都港区)。会員の声をもとに、撮り鉄向けの限定サービスなどを提供していく想定だ。
撮影地での「罵声」や線路内・私有地への立ち入りなど、マナーの悪さが問題視される撮り鉄。それでも、鉄道会社が撮り鉄との「共存」を目指す理由は。
目指すのは「撮り鉄のスタンダード」
「撮り鉄という言葉を聞くと、一般的にはあまり良くないイメージを持たれてしまうかもしれません。しかし、今回はコミュニティに"撮り鉄"という言葉をつけることとしました」
ファンコミュニティのプラットフォーム「Mechu」内に開設された「撮り鉄コミュニティ」。ニュースリリースでは「撮り鉄」という言葉が持つネガティブイメージについて、単刀直入に触れられている。
コミュニティではフリー(無料)会員か、月額1100円のスターター(有料)会員かが選べる。スターター会員になると、コミュニティ内で自分の意見を発信・共有できる。ファンの要望をもとに、撮影した写真の広告起用、私有地での撮影イベントなど、コミュニティ限定企画が生まれる可能性もある。ライトからコアまで、幅広い層の撮り鉄をターゲットにする。
10日に開設してから、11日までに300人以上の登録があった。目指すのは、撮り鉄のニーズをとらえたサービスの実現だ。JR東日本グループは、eコマースサイト「JRE MALL」を通じ、鉄道撮影イベントの販売を実施。撮り鉄との距離を縮めようとしてきた。
しかし、課題も浮き彫りになったという。11月11日、J-CASTニュースの取材に答えたJR東日本スタートアップの担当者の話だ。
「会社側が思いついたことを『どうぞ』という形で提供している。ファンの意見を全く取り入れていない。ファンには『本当はこういうのが撮りたいんだけど...』という思いがある」
撮り鉄たちは何を望んでいるのか。彼らのニーズを掴むために開設したのが、今回の「撮り鉄コミュニティ」だった。担当者は『コミュニティを通じて、『撮り鉄のスタンダード』を作っていきたい」と意気込む。
「撮り鉄の方を排除しても...」
撮り鉄コミュニティの開設には、もう一つ狙いがある。撮り鉄が起こすトラブルの軽減だ。
今年4月、京阪電鉄・森小路駅(大阪市旭区)のホームから線路内に降り、鉄道の走行動画を撮影したとして、東京都内に住む19歳の少年が鉄道営業法違反の疑いで11月9日に家裁送致された。少年は「他の撮り鉄に負けたくなかった」と供述しているという。
頻発する撮り鉄の迷惑行為に、鉄道会社は頭を悩ませてきた。JR東日本スタートアップの広報担当者は「鉄道会社も今までは(撮り鉄問題を)避けてきたというか、敵対視してきたところがあった。いいイメージがなかった」と語る。
駅での撮影を禁止するなど、撮り鉄への締め付けを強くする方策も考えられる。ただ、「撮り鉄の方を排除しても、絶対どこかから(問題行為が)出てくる。全ては埋めきれない」と担当者は話す。
突き放すのではなく、「共存」を――。撮り鉄コミュニティを通じて「撮り鉄のスタンダード」を作ることで、トラブルを減らしていきたいという。「鉄道会社だけではなく、沿線住民や私有地をお持ちの方にご迷惑をかけなくなることが、我々としても一番」(担当者)
迷惑行為が報じられることの多い撮り鉄だが、マナーを守って撮影する人も多くいる。担当者は「我々の商品を撮っていただけるのはうれしいこと。ネガティブな『撮り鉄』というワードがポジティブなワードに変わっていけば」と期待を寄せる。
(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)