「あなたのためなら何でも書きます」
不倫・家出が発覚し、父親から、「お前は子を捨てた人でなし」と激しく糾弾され、勘当の宣告。「出家するとは生きながら死ぬこと」「出家とはすべてを捨離することである」と心得て、「忘己利他」の精神で生きようとした。
だが、瀬戸内さんのユニークさは、出家してもなお俗世との縁が切れていないように見えたことだった。畢生の大作『現代語訳「源氏物語」全10巻』に取り組んだときは、書斎の壁に、自身の「歴代の男」の写真を飾っていたという。深い関係にあった男性作家の娘が女性誌の編集者になったときは、頼まれてその雑誌にエッセイを連載した。「あなたのためなら何でも書きます」と言って。(「週刊朝日」2017年3月3日号、林真理子さんとの対談による)。
自らの過去に、いわば大きなバッテンをつけ、潔い後半生を選択したはずだが、けっして世捨て人になり、隠遁したわけではなかった。
常人には測りがたい茶目っ気、おおらかさ。捨て身になったのに、なお煩悩と背中合わせ。そんな破天荒な「人間力」に多くの人が引き寄せられ、有名人の中にも寂聴ファンが多かった。