食糧事情が悪化している北朝鮮が、「クロハクチョウ」としても知られるコクチョウの大量飼育に乗り出した。
国営メディアが、北東部のアヒル飼育施設にコクチョウの飼育施設が完成したことを報じている。記事では、コクチョウの大量飼育が可能になることで「人民生活の生活を向上させるための基盤を提供することになる」と説明。北朝鮮の対外宣伝サイトでは、コクチョウについて「肉の味が独特で栄養価が非常に高い」として、タンパク源としての有望ぶりを伝えている。
朝鮮戦争直後にできたアヒル工場の中に建設
2021年10月25日から26日にかけて朝鮮中央通信などが報じたところによると、コクチョウの飼育施設は、咸鏡南道(ハムギョンナムド)定平(チョンピョン)郡の広浦(クァンポ)アヒル飼養工場に完成。「繁殖に必要な条件が十分備わっている」といい、その意義を
「希少な観賞用鳥類で、肉の味が良く薬効があるコクチョウを産業的に飼育することで、人民生活を向上させるための基盤を提供することになる」
と説明している。
「広浦アヒル飼養工場」は、金日成主席が名付けた「広浦種アヒル」の飼育のため、1953年7月の朝鮮戦争停戦直後に創立された。同10月に現地を訪れた金日成氏は
「過去には金持ちだけが肉を食べたのでその生産量が少なくても構わなかったが、人民政権の下ではわが人民みんなに肉を十分に供給しなければならない」
などと述べたという。70年近く前にタンパク源の確保を目的に作られた施設を、改めて食糧生産の拠点として活用する考えのようだ。
「21世紀有数の健康食品、理想的な抗癌食品」??
この工場のコクチョウ飼育の取り組みは、20年7月末に「我が民族同士」などの対外宣伝サイトに掲載された記事でも紹介されている。記事では、コクチョウについて
「肉の味が独特で栄養価が非常に高いため、21世紀有数の健康食品、理想的な抗癌食品として公認されている」
と紹介しており、農業省の幹部が
「他の肉より脂肪の融点が10度くらい低いので消化吸収にもよい。特に、他の肉にはごく少量で、または含まれていない免疫グロブリンやリノール酸、抗癌物質が多く含まれている」
などと説明している。
記事では、工場の取り組みについて
「工業的な方法で飼育するための科学研究に力を入れて成果を収めている」
「その飼養工程を工業化し飼養管理技術を解決するために努力している」
などと表現。大量飼育が課題になっていることを報じていた。
大量飼育を急ぐ背景には、北朝鮮の食糧事情がある。金正恩総書記は、6月15日の朝鮮労働党の会議で
「農業部門で昨年の台風の被害のため穀物生産計画を未達成だったことで、現在、人民の食糧状況が切迫している」
と述べたのに続き、9月29日に行った演説で、
「人民に安定して裕福な生活を提供するには農業の発展に優先的な力を入れなければならない」
と発言。労働新聞によると、正恩氏は「農業生産を飛躍的に発展させて近い将来に食糧問題を完全に解消するという朝鮮労働党の確固不動の意志と決心を披歴した」という。
北朝鮮は新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した20年1月に国境を閉鎖し、事実上の鎖国に突入。中国との貿易は大半が止まったままで、食料輸入が滞っていることが食糧不足に拍車をかけている。北朝鮮は国境近くに大規模検疫施設を建設し、21年夏にも本格的な貿易再開を目指しているとみられていたが、現時点では本格再開には至っていない。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)