劇場に観客は何を求めるか
劇場は単に芝居を観るためだけの場ではない。入場から帰宅までの体験そのものがハレの日の楽しみでもある。「観客が劇場に求めることは観劇やその演目による感動はもちろん、非日常空間の享受ということになると思います」と話す沢田さんは、ステージの外でも観客を心地よい気分させてくれることが劇場には必要と指摘する。「スマホ一つで、いつでもどこでもコンテンツを視聴できる今の時代に、会場まで行って楽しむという、不便さ、不自由さ。演劇ファンはそんな不自由な存在の楽しみ方を知って愛してくれていると思っています」
「特に公演中は感覚を視覚と聴覚に注ぎ込み、一つ一つの動作やセリフはもちろん、役者の呼吸まで掴み取ろうとしています。そんな観客に劇場が提供するべきなのは『集中してもらう空間』であると思います。公演中の異音や雑音、前の観客の後頭部や手すりで舞台が遮られる、空調や座席が硬い、場所によっては舞台袖の中が見切れるなど、ふとしたことで集中力が途切れると、芝居の内容が抜けてしまいます。非日常が薄れて、今度は芝居のアラが気になるようになってしまい...結果として芝居への感想とともに劇場の評価も変わってくるのだと思います」
劇場の価値は収容人員や上演作品の質だけでは決まらない。伝統ある劇場に劣らぬ観劇体験を提供できるかが、新しい劇場の課題となるようだ。
「現状の解決方法としては、座席数に対する舞台機構と客席を、専門家が予算別にパターン化してしまうことです。これで、最低限の予算確保をした上で、途中の広さに応じて自由にロビーを設計する。パターンを決めれば、他劇場の問題点やデータを共有したり、次の改善に活かしたりすることができます。劇場は地域のシンボルですから、長く愛され続けるように作ってほしいですね」(沢田さん)
このような観客の評価を、豊島区はどう受け止めているか。東京建物ブリリアホールを管轄する豊島区文化商工部文化デザイン課は、劇場に関する観客の評判は「当区としても承知しております」として、「当劇場は開館して2年間という新しい施設ですので、利用者の皆様からの様々なご意見等を積極的に収集し、より一層ご利用の皆様にご満足いただけるよう改善をしていく予定です」と取材に答えている。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)