新しい劇場に「不評」目立つ理由 観客が求める「非日常空間」作りへの課題とは?舞台監督に聞く

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建築手法の変化が裏目に?

   「行きたい劇場」の上位はもとより演劇上演のために建設され、建物も劇場空間と付属施設で占められている。他方評価の低い劇場は再開発で計画された複合施設の中につくられていたり、演劇専門ではなかったりといった背景もある。とはいえ新しい劇場にもかかわらずネガティブな評価が目立つのはなぜか。

   劇場の裏方や舞台監督を務めている沢田裕位さんは、観客の心理として「『新しい劇場』というだけで期待値が高く、ちょっとしたことでもマイナスに感じる事が大きくなるかもしれません」と推測しつつ、建築プロセスにおける課題をこう考える。

「ハード面での課題は劇場を建てる際の入札やコンペが一般的になったことです。これは予算が決まってしまうとそれなりに安い方が有利になり、高価な舞台設備のように必要なモノがあっても予算がつかないことがあります。
また、オーナーの意向で客席数を増やしたいなどの要求があると、法律ギリギリまで無理に詰め込む事になります。設計時に多少のゆとりを持っていても、そのゆとりを削って座席数を増やしている可能性があり、見えにくい座席が作られる要因になっていると思います」

   法規の改正も影響があるのではないかと考えられる。

「災害を踏まえた法改正やバリアフリーを意識することで、建築のルールの変化があります。これは手すりの高さや客席の傾斜に影響が出ています。手すりの高さが法規で決められ、人が座った時の目線と同じ高さで設定された為、視界を遮ることが増えました。他にも客席内の傾斜が緩く前の座席と高低差が付かず舞台が見え辛くなります。車いすの方が移動しやすくなっていますが、ほとんどのお客様には不評となります」

   建設費を節約し、簡素なつくりの劇場になってしまう背景は他にもあるようだ。

「『お客さんは劇場を見に来るわけではない。芝居で勝負!』という考え方が建設費節約の考え方を後押ししています。近年はむき出しの照明機材や似たような壁や色調の劇場が増えたと思います。ブロードウェイの影響から『劇場内をそのお芝居にベストな形に使える劇場』タイプの建築の考え方なのですが、これは本来、潤沢な予算と長い仕込み稽古期間で、公演をベストな状態に持っていく前提があります」

   ロングラン上演もありえるブロードウェイと違い、日本の演劇では短いスパンで公演を回すことで収益を確保している。宝塚や劇団四季のような専用劇場でない場合、短期間で公演を入れ替えて劇場も成り立っている。「日本の商業演劇では概ね1週間程度で初日を迎えるため、先にも触れたとおり諸々を検証し修正する時間がありません。新しい劇場は特にその影響を受けてしまいます。取りこぼした部分が多少出ても幕を開けるので、満足いただける方と低評価の方がいるのだと思います」と沢田さんは分析した。

   ただし、ソフト面であれば改善可能な点もあるという。「劇場の実測データが取れれば、概ね改善していくと思います。例えば音響ですが、どこの劇場でもデッドスペースはあります。壁の材質や座席背面の作りでも硬い響き、柔らかい響きと響き方が変わってきます。ですが、データが揃ってくればスピーカの向きや数を変えたり、機材を工夫したりするなど、ある程度の改善は出来ると思います」

   しかし、座席配置や機材搬入に使う舞台裏通路などのハード面は一度建ててしまうと改善は難しいと沢田さんは話す。

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