ブラック企業などに見られる労働基準法違反行為についてクイズ形式などで学べる厚労省のスマートフォン用アプリ「労働条件(RJ)パトロール!」が、ツイッター上で注目されている。
「おぅ!お疲れ!あれ?もう上がる時間か?」。会社の主任からこう声をかけられ、若者はシフトを理由に会社を出ようとした。すると、主任は、こう返す。
パトロール隊は、企業主任のNG発言に「アウト!」と告げ
「まぁ、シフトはそうかもしれんが...今日はちょっと忙しそうだから、もう少し時間延長してくれ!」
主任に言われて、若者は、「え?だって」と動揺し...。
厚労省のアプリでは、こんなやり取りで、労基法違反などのせりふはどれなのか当てて行く。
アプリは、2017年11月10日にリリースされたが、21年10月25日にツイッターで紹介されて、1万件以上リツイートされる話題になった。「マンガで学ぶ」と「クイズで学ぶ」の2つのモードがあり、注目されたのは後者だ。
クイズは、銀河系宇宙の果てにある「ふたご星」のうち一方の星では、悪が一部の人々の労働環境を脅かしているという想定で行われる。危機感を持った秘密組織のボスがその改善を目指して部下5人をパトロール隊として送り込み、11章のストーリーが展開される。
前出のやり取りは、「シフトワーカーよ、便利屋にされるな!」と題した第1章だ。パトロール隊は、企業に潜入して、主任と若者のやり取りを見て、主任に「RJアウト!」と告げる。
アプリ利用者は、NGだと思う主任の発言をタップして、4つの正解を当てるというクイズだ。続いて、労働関係法令上の解説が出て、それらに目を通すと「任務完了」になる。アプリには、労働相談の窓口も紹介しており、労基法違反の通報先もある。
アプリストアのレビュー欄では、様々な意見が出ていた。「素晴らしい。小学校からこのアプリを義務付けるべき」と讃える声から、「手前勝手な正義感で世の中で生きづらくなるのが予測されます」と厳しい指摘まであり、レビューも話題になっていた。
アプリ経由の通報も続々
このアプリを作った理由について、厚労省の監督課は10月28日、J-CASTニュースの取材に担当者がこう説明した。
「高校生や大学生がアルバイトをしていて、何も知らずに損をしていることがあると思います。例えば、休憩時間を入れないといけないことや仕事中のケガで労災を使えることを知らない人も多いですね。若い人たちに労働条件について知ってほしいと思って作成しました。難しい文書ですと読んでもらえませんので、アニメ風にする方がいいと考えました」
アプリは、企業や学校でも活用されていると担当者は言う。
「教材として使う学校は多く、高校に入ってアルバイトをするのに備え、社会科の授業で使った中学校の先生もおられました。また、人事部の人自身も詳しくなかったりして、企業の研修で使いたいといった問い合わせがけっこうありますね。残業代が出ないことを何とも思っていない人もいますが、時間外・休日労働に関して36協定が労使間で結ばれていないと残業代を出さないといけません。有給休暇を取らせてもらえないのが当たり前だと思っている人も多いですね」
アプリをきっかけに企業の違法行為を通報するケースも増えてきているといい、現在は、月に50件以上あるという。労働環境が劣悪な企業には、労基署の監督が入ったこともあったとした。本人が直接会社とやり取りすれば社内で不利益を受ける可能性もあるため、積極的に通報してほしいとしている。
厚労省自体の労働環境についても、劣悪な部分があると報じられることもあるが、担当者は、「公務員は、36協定の対象ではありませんが、残業代は当然出ますし、言われているようなブラックではありません。休憩も取らないといけないと言われています」と反論した。アプリについては、作成した監督課内では見ているが、同省全体でどうかは分かりかねるという。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)