ファクトチェックを支援する国内団体「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)が2021年10月24日、衆院選(10月31日投開票)に関係するファクトチェックの状況を紹介するオンラインイベントを開いた。
この日までに掲載されたファクトチェック記事は11本。そのうち3本がネット上で拡散した情報、残り8本が政治家の発言に関するものだ。そのうち2本が「ほぼ正確」だと判定されたが、残り6本は「ミスリード」や「不正確」などと判断された。発言には、どういった問題があったのか。
広島は岸田首相にとって「『心の拠所』と言える土地」だが...
選挙戦の序盤で話題になった政治家の発言のひとつが、自民党の甘利明幹事長によるものだ。甘利氏は10月17日にNHKで放送された「日曜討論」で、
「ここにあるこのスマホ、世界を席巻しているスマホも、3Dプリンターもあの量子コンピューターも、全部日本の発明です」
だと発言。直後から、特にスマホについて「そうだっけ?」といった疑問の声がネット上で相次いでいた。
この発言は、ニュースサイトの「インファクト」が検証。3Dプリンターは日本人が発明したが、スマホは米IBM社、商用量子コンピューターはカナダのベンチャー企業が発明したとして、発言全体としては「不正確」だと判断した。
岸田文雄首相の「被爆地広島出身の総理大臣として」(10月8日、党首討論)という発言にも疑問符がついた。検証記事では、「出身」が「生まれた土地、卒業した学校、属していた身分などが、そこであること」(広辞苑)を意味することを踏まえながら、岸田氏のウェブサイトや著作の記述を根拠に、岸田氏は両親の帰省時に広島で過ごしたことはあるものの「東京生まれ、東京育ち」であることを指摘。
自民党本部にも問い合わせて
「広島は、岸田家代々の地元であり、岸田にとって『心の拠所』と言える土地です。また、岸田自身、そうした縁の深い広島の選挙区から選出された国会議員でもあります」
「こうしたことを踏まえ、従来から、『広島出身』と申し上げてきています」
という見解を得た上で、次のような結論を出している。
「『誤り』とまでは言えず、生まれも育ちも広島ではないという重要な事実が欠けているという意味で『ミスリード』と判断した」
「インファクト」編集長の立岩陽一郎氏は、自民党の回答について
「じゃあ、私にとって心の拠り所である沖縄について、多分『沖縄出身』と言っても誰も文句は言わないんだろう」
と皮肉る一方で、岸田氏について「広島出身」と紹介しなくなったメディアもあるとして
「そういう点でもファクトチェックは意味がある」
と話した。
野党のファクトチェックが少なくなる理由
政治家に関する検証記事8本のうち5本が与党政治家の発言で、野党の発言よりも検証される機会が多い。立岩氏はその理由を
「我々はファクトチェックだから、『ファクト』をチェックする。野党に多いのは精神論で、チェックの対象にならない発言が実は多い。『平和な国家を作ります』なんて言われても、何をファクトチェックすればいいのか分からない、そういうのが多い。そういう意味では、与党の発言の方が(取り上げる割合が)大きくなってしまう。これは仕方ないと思う」
などと説明した。
ただ、FIJの楊井人文事務局長は、野党も様々なデータを駆使して安倍政権の経済成長などについて批判を展開する場面があるとして、「議論の前提となる事実が本当に正しいのかどうか」について検証することがファクトチェックでは重要だと指摘。異論を唱えていた。
今回の選挙に限らない情報も検証された。毎日新聞は、選挙機材大手「ムサシ」の大株主が安倍晋三元首相だ、というネット上の噂を検証。同社が公開している有価証券報告書の「大株主の状況」の欄に安倍氏が登場しないことを根拠に「誤り」と判断した。「ムサシ」をめぐる怪情報は、選挙のたびに流れる「定番」ともいえる存在だ。毎日新聞デジタル報道センター長の日下部聡氏は、こういった情報を検証する意義を
「選挙のたびに毎回毎回出てくる言説(情報)をきちんとチェックしておくことで、将来にわたるストック(蓄積)になるのではないか」
と話した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)