恒例の「日中共同世論調査」の2021年の結果が10月20日に発表され、中国人が日本に抱く感情が1年で急激に悪化したことが明らかになった。
中国人の対日イメージ向上に役立ってきた日本旅行がコロナ禍で途絶えたり、日本に批判的な中国メディアの論調が、無批判に受け入れられたりしていることなどが背景にありそうだ。
日中の政府間対話が行われず中国側の不安が増す
調査は日本のNPO「言論NPO」と中国の「中国国際出版集団」が8月中旬から9月上旬にかけて行い、東京と北京をオンラインで結んで開いた記者会見で結果を説明した。
中国人の日本に対する印象を「良くない」(「どちらかといえば良くない」を含む)とする回答の割合は、20年より13.2 ポイント高い66.1%だった。今回の調査は17回目で、13年の92.8%をピークに右肩下がりで、19年に52.7%まで減少。20年は52.9%と微増だったが、この1年間で一気に上昇した。
一方、日本人で中国に対する印象を「良くない」と考える人は、20年より1.2ポイント高い90.9%。高止まりしている状態だ。
言論NPOの工藤泰志代表は、「日中関係の発展を妨げるもの」を複数回答で選んでもらう項目に、中国側にだけ変化が起きた理由を読み解くカギがあるとみている。中国側では、以下の3つが、この1年間で5ポイント以上増加していた。工藤氏は、日本側の動向がメディアを通じて伝えられ、日中の政府間対話が行われないために中国側の不安が増したと分析している。
「中日両政府の間に政治的信頼関係ができていないこと」(18.9%→29.3%、10.4ポイント増)
「領土(編注:尖閣諸島)をめぐる対立」(55.2%→62.4%、7.2ポイント増)
「日米同盟と日本の軍事力増強」(10.6%→19.5%、8.9ポイント増)
日本旅行できないなら「自国のメディア報道を見るしかない」が...
さらに、「国民の直接交流がお互いの印象をプラスに転換させる」ため、中国人が日本旅行をすることで対日感情を改善させる効果があったが、コロナ禍でそれが途絶えたことも影響したとみる。そうなると「国民が直接交流がないときは自国のメディア報道を見るしかない」。そこで、両国の国民がメディアを見る目が大きく違うこともクローズアップされた。
「自国の新聞・雑誌・テレビの相手国及び日中関係についての報道内容および評論は、客観的で公平だと思いますか」という問いに対して、中国側は78.3%が「そう思う」と答えたのに対して、日本側は10.8%に過ぎなかった。工藤氏は
「メディア報道から日本の状況が伝わることによって、中国の国民感情に火がつくことがある、ということを、ここで理解した方がいい」
とも警告した。さらに、日本に対して「良くない印象を持っている」と回答した人に対してその理由を聞いた項目で、最も大きく伸びたのが
「一部の政治家の言動が不適切だから」(12.3%→21.0%、8.7ポイント増)
という項目だ。ここで工藤氏は、今回世論調査が行われた時期が自民党総裁選が行われた時期と近いことを指摘し、候補者から中国を批判する発言が相次いだことが影響したことを示唆した。
さまざまなデータや情報源を自分で判断していく社会が望ましい
つまり、対日感情が悪化した背景には(1)総裁選で候補者が中国に批判的な発言をする(2)中国政府が反発し、それを受ける形で中国メディアが日本に批判的な報道をする(3)中国の視聴者は報道をそのまま受け止め、対日イメージが悪化する(4)これまでは中国人が日本に旅行し、メディアでは得られない良い対日イメージを得る機会があったがコロナ禍で途絶えた、といった要素が絡み合っているとみられる。
記者会見では、国民がメディアに寄せる信頼度の違いも話題になった。中国側からは、日本メディアが国民に信頼されていない理由を問う声があがった。工藤氏は、この違いの背景には、日中の「基本的な文化の問題」があるとしている。工藤氏は、メディアをそのまま信頼することが日本の民主主義体制では必ずしも望ましいとは受け止められておらず、他の情報源と合わせて判断することが重視されているとの見解を示した上で、次のように説明した。
「いろいろな情報を考えるときに、さまざまなデータなり情報源を自分で判断していく社会が望ましいと我々は思っている。そのため『日本の国民が圧倒的に日本のメディアを信頼している』となると、それは我々日本の感覚から見れば、『ちょっと大丈夫か?この国は』と思ってしまう」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)