東急電鉄(東京都渋谷区)が"電車を売る"と、SNS上をざわめかせている。駅内掲示板や公式サイト上のお知らせによれば、田園都市線8500系の車両1両や先頭部分カットモデル、運転台などを販売するという。
車両1台の値段は消費税など込みで176万円。SNS上では「電車って買えるんだ」「普通車より安い」などと驚く声が広がっている。
一般向けに車両を販売するのは今回が初めて。なぜこのような特別販売を行うことにしたのだろうか。J-CASTニュースは2021年10月19日、東急電鉄に取材した。
「想い出の回想を長期間にわたり体感することができれば」
8500系は1975年に導入されて以降、田園都市線を中心に活躍してきたが、2020系車両を導入したことに伴い廃車が進んでおり、現時点では残り4編成となっている。
東急電鉄は10月15日、今後廃車予定の8622編成と8630編成の車両1両などを一般の人々に特別販売すると発表した。
これまで廃車となった車両は、国内の地方鉄道会社やインドネシアなど海外の鉄道会社に、中古鉄道車両として譲渡されてきた。一般の人に対しては車号板やつり革などの部品を販売することはあったが、車両丸ごとを販売するのは今回が初めてだ。
なぜ車両販売を行うことにしたのか。取材に応じた東急電鉄はこう述べる。
「今回の販売は、ローレル賞に輝いた8500系車両に対して親しみ・愛着をお持ちいただいているお客さまにお譲りすることで、同車全車両が現役を引退した後も在りし日の8500系や同車現役当時の東急線沿線の情景を回想し、お客さまやご覧になられた方ご自身の想い出の回想を長期間にわたり体感することができればとの想いから企画したものです」
ローレル賞は、愛好者団体「鉄道友の会」が制定した鉄道車両に対する賞だ。8500系は1976年に受賞している。
そんな多くの人々から親しまれた8500系の特別販売。東急電鉄によれば10月19日現在までに、車両1両全体については4件、車両一部分カットに2件、運転台に9件の連絡が寄せられているそうだ。
輸送や設置にも莫大なコストが!
今回の車両販売をめぐって、SNS上では「欲しい!」「意外と買える値段」といった声も広がったが、実際に車両を購入するには、東急電鉄の審査をクリアしなければならない。同社公式サイトによれば、購入には様々な制約があり、車両を適切に保存できる人に販売を行うとしている。
さらには、販売価格のほかに輸送費や設置費用などもかかる。もし買い取ることになった場合、どのように車両を郵送し保存することになるのか。またその費用はいくらほどかかるのだろうか。東急電鉄に尋ねると、次のような答えが返ってきた。
「今回の販売では、お引取りについては、購入者様による手配となりますが、トレーラーでの陸送が一般的です。
距離や運搬先の状況によりますので一概に回答が出来ませんが、数百万円レベルが想定されます」
SNS上で今回の特別販売に大きな注目が集まっていることについては、「大変ありがたく思います」と受け止めた。
東急電鉄の車両は、同社が地方鉄道会社へ中古車として譲渡後に地方会社から販売されることはこれまでにもあった。東急電鉄として一般向けに車両を販売するのは初めてのことではあるが、東急電鉄は企画の意図を汲んで大切に保存してもらえることを願っていると述べた。
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)