格安航空会社(LCC)のピーチ・アビエーション(大阪府泉南郡)は2021年10月13日、指定の行き先だけで使えるポイントが当たるカプセル型自販機「旅くじ」を、東京都内の商業施設「渋谷パルコ」に設置した。
北海道から沖縄まで、行き先を選べない旅を提案するという奇抜な企画。SNS上を中心に大きな注目が集まっている。いったいなぜ、このような企画を行ったのか。
J-CASTニュースは13日に開催されたメディア向け内覧会で、「旅くじ」の仕掛け人である、事業戦略室ブランドマネージャーの小笹俊太郎さんに取材した。
「月に2,3個売れれば良いほうだと思っていた」想定外の大反響
旅くじは1回5000円で、オリジナル缶バッチと、旅先が指定された6000円分以上の「ピーチポイント」引換券を入手することができる(ポイント数はランダム)。
行き先は、同社の就航地のすべてが対象。女満別、釧路、札幌(新千歳空港)、大阪(関西空港)、福岡、大分、長崎、宮崎、奄美、沖縄(那覇空港)、石垣のいずれかで、選ぶことはできない。
引換券には「札幌に行って、カニを苦労してむいて、隣の人にあげてきて!(手袋で)」といった行き先に関連したミッションも書かれている。ミッション達成をピーチが運営する旅情報サイト「tabinoco」に投稿すると、抽選でポイントを得られるチャンスもある。
旅くじのカプセル自販機は、渋谷に先んじて大阪の「心斎橋パルコ」に8月から設置されていた。当初の売り上げは緩やかだったそうだが、ショートムービーアプリ「ティックトック」をはじめSNSで話題になると、「旅ガチャ」などと称され売り上げが急増。2021年10月13日までに、約3000個のくじが売れたそうだ。
旅くじを企画した小笹さんは、想定以上の売り上げに驚く。
「行き先が選べない旅という奇抜な企画なので、社内では『多分無理だろう』という声も上がっており、実は1日1個くらい売れたらいいなと考えておりました。SNS上でいきなり人気に火がついて驚いております」
メディア向け内覧会では、「月に2、3個売れれば良いほうだと思っていた」と漏らす社員も。ではなぜ、社内でも期待感が薄かった企画の実施に踏み切ったのだろうか。
「旅くじ」を企画した背景
小笹さんは、かねてより「面白いことをしたい」と考えていたという。
今回の企画にも、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言などの影響で自粛を余儀なくされ我慢をしてきた人々に、「わくわくする」体験を提供したい、との思いを込めた。今すぐに旅に出たい人にも、様子を見てから出かけたい人にも、まずは「旅くじ」を通して旅への期待感を高めてもらいたいという。
さらに小笹さんは、「売れることも大事ですがこういうものをきっかけにお客様とお話することにも意味があると思っています」と語る。
「『旅くじ』はもともと、大阪の『心斎橋パルコ』にワーキングスペース『Peach SHAKE LABO(ピーチシェイクラボ)』をオープンした記念に企画しました。お客様を待っているだけではなく、自分たちから街に出ていって接点を持つことが大事だと考えております。
お客様と触れ合い、いろんな仕事をされている方と交流することは、自分たちにとってもいい刺激になります。『旅くじ』は、『面白いことしてるね』などとお話が生まれるきっかけになると思い、1か月で、突貫で作りましたね」
SNS上で「旅くじ」が話題になると、「あんまりお得感無いような」「そんなにお得じゃない感」といった声も寄せられた。たしかに5000円のカプセルから出てくるのは6000円分以上のクーポンとおまけの缶バッチ。旅行が格段に安くなる商品というわけではない。
こうした声を、どう受け止めているのか。小笹さんに聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「たしかに数字で言えば、5000円よりはちょっといいポイントが入っているくらいです。しかしたとえば福袋には、お得を求める人と、自分の思っていたものと違う服を着てみて『意外と面白かった』という感覚を求める人がいると思います。バランスもあるとは思いますが、『旅くじ』はどちらかというと後者。自分の想定していなかったものに出会えることを面白いなと思ってほしいです。
もちろん、くじの中には6000円分以上のポイントが入った少しお得なものもあります(笑)」
そのうえで小笹さんは、「どの行き先がアタリかと聞かれることも多いが、『自分ではいかないところ』が当たりだと思う」と持論を述べた。
引換券に記載されたミッションは社内で公募しており、今後も追加を検討しているという。ピーチ・アビエーションは、旅くじを通して、地域の新たな魅力や需要を創出し、活性化にも繋げていきたいと意気込みを燃やしている。
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)