SNS文化は「一周回って川柳とリンクする」 「サラリーマン川柳」が今「若者」に期待する理由

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   日常の「ちょっとした出来事」を「五・七・五」で伝える第一生命の人気企画「サラリーマン川柳」。1987年から毎年実施され、ことしで35回目を迎える。

   家庭や仕事上の「悲哀」を描いた作品が多いことで知られるが、近年は「20代限定」など若者をターゲットにした川柳も募集。今回も「若者言葉」の使用を条件としたコンクール「イマサラ」を開催している。

   第一生命の担当者が語る「若者限定川柳」への期待とは。

  • 第一生命「サラリーマン川柳」が若者をターゲットにする理由
    第一生命「サラリーマン川柳」が若者をターゲットにする理由
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一句で2つの意味...高等テクニックも魅力

「いい家内 10年経ったら おっ家内」自宅拒否症 (1992年度、第6回)
「コストダウン さけぶあんたが コスト高」四万十川 信彦(1998年度、第12回)
「退職金 もらった瞬間 妻ドローン」元自衛官(2015年度、第29回)

   いずれも、サラリーマン川柳の各回1位に選出された作品だ。仕事、家庭、日常生活の悲哀などが、テンポよく、ときには流行ワードを交えながら表現されている。

   サラリーマン川柳は1985年に第一生命の社内報企画としてスタート。2年後の87年から一般公募を開始し、以降は毎年実施されてきた。「サラリーマン」とは言うものの、応募は誰でも可能だ。全国から寄せられた作品のうち、第一生命の社員が上位100句を選定。そこから一般投票によって、その年の「最優秀作品」が決まる。

   「読んだら三秒に満たないで終わってしまう言葉」(第一生命の担当者)の中には、詠み手の思いはもちろん、高等なテクニックも凝縮されている。これまで1位に選出された作品の中で、第一生命の担当者が特に「秀逸」だと感じたのは、こんな句だ。

「五時過ぎた カモンベイビー USA(うさ)ばらし」盆踊り(2018年度、第32回1位選出作品)

   定時退社するサラリーマンの喜びを、音楽グループ「DA PUMP」のヒット曲「USA」の歌詞になぞらえて表現したこの句。USAを「ユー・エス・エー」ではなく「うさ」(憂さ)と読むことで、一句の中で2つの意味(5時過ぎた→憂さ晴らし、カモンベイビー→USA)を表現している。

「一つ一つ考えたら(意味的には)バラバラなんですけれど、本当によく五七五に入れたなと。それもうまく、楽しく作るというのは『天才か!』って感じですね」(第一生命の担当者)

「社会の変化」映した35年

   川柳35年の歴史を振り返ると、「社会の変化」も浮かび上がってくる。たとえば90年度の第4回では、こんな句が寄せられた。

「ブランドは 見るもの聞くもの 貰うもの」貢くんの彼女(1990年度、第4回)

   27年後、第30回の1位に選ばれたのはこんな句だった。

「ゆとりでしょ? そう言うあなたは バブルでしょ?」なおまる御前(2016年度、第30回)

   91年にバブル経済が崩壊し、就職氷河期が到来した。まだ小さかった子供たちは、やがて学校で「ゆとり教育」を受け、2000年代後半以降に社会へ進出。2つの句は、社会の中心を担う「主役」が交代したことを印象づけている。

   2020年度に募集した34回作品にも、社会の変化が如実に反映されている。人々が未曽有のコロナ禍に見舞われた一年。1位になったのは、こんな句だ。

「会社へは 来るなと上司 行けと妻」なかじ

   テレワークの普及によって、家庭と会社の間で板挟みになる夫の悲哀が描かれている。

   第34回でベスト100句に選ばれた作品は、マスクの着用、テレワークの導入など、多くがコロナ禍による生活の変化を表現した句だ。しかし、「コロナ」というワードを含むものは、29位の「コロナ禍が 程よく上司を ディスタンス」(大舞剛人)の一句のみ。「コロナというワードを使わずコロナ禍の生活を表現することに、一生懸命工夫されたんだろうなという気がします」(第一生命の担当者)

   そんな34回の中で、担当者が「目を向けてほしい」と語るのは、下位の句だ。

「今のなに? 半裸横切る Web飲み会」あけたん(89位)

   「想像して思わず笑っちゃっいました。お父さんなのか、お子さんなのか、はたまた半裸がどの程度なのか全然わからないんですけど。きっと何かが横切ったんだろうなって(笑)」

   「五・七・五」の外側にある言葉を想像するのも、川柳の魅力かもしれない。

SNS文化との「化学反応」に期待

   2021年9月17日に、第35回の募集がはじまったサラリーマン川柳。東京オリンピック・パラリンピックが終わり、国民のワクチン接種が進んでいる。一方で、人々は相変わらずマスクをつけ、飲食店の時短要請も継続。生活がコロナ前に戻っているとは言い難い状態だ。それでも、第一生命の担当者は今回も「サラ川」らしい句が集まることを期待している。

「コロナ真っただ中での開催となった第34回でもこれだけ思わず笑っちゃう句が出てきたので、きっと明るい句がいっぱい来るだろうなと期待しています」

   新たなサラ川の可能性を模索するため、始めた企画もある。「若者言葉で一句詠む 『イマサラ』」だ。20代を対象に「若者言葉」を盛り込んだ作品を募集するというもの。作例としてあげられているのは、こんな句だ。

「ウェブ飲み会 同期が突然 フロリダへ」

   「フロリダ」とは、「風呂(フロ)でやりとりから離脱(リダつ)する」を意味する言葉。応募作品はサラリーマン川柳の公式ツイッター、インスタグラムで公開する。

   第一生命は16年に20代限定企画の「U-29 サラ川グランプリ」、19年、20年にはこちらも20代限定で、写真を使った川柳コンクール「#フォトサラ」を実施。若い世代に川柳の魅力を知ってもらおうと、力を入れてきた。

   期待するのは、若者が慣れ親しむSNS文化との化学反応だ。ツイッターでは1ツイート140字の文字制限があり、LINEでは「OK」「了解」など短文でのやり取りが当たり前になっている。

「短文で思ったことを発信するというのは、一周回って川柳とリンクする。自分の伝えたいことを短く表現することで、改めて若い方達にも、楽しんでいただけるのではないか」(第一生命の担当者)

   若者の「感性」にも期待を寄せている。

「これまでのサラリーマン川柳といえば、上司・部下間の悲哀や、家庭内、夫婦内の話が定番でした。それだけではなく、新しく若い方のアイデアも取り込みながら、サラ川をどんどん進化させていきたいです」

   第35回サラリーマン川柳、「イマサラ」の応募は10月29日まで。いずれも第一生命の特設サイトで受け付ける。

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)

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