岸田政権で日韓関係「好転」? 両国の識者が読み解く

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   日韓の研究者や国会議員が両国の懸案について議論する「日韓未来対話」(言論NPO、東アジア研究院主催)が2021年10月2日、日韓の会場をオンラインで結んで開かれた。

   日本では岸田文雄首相が就任し、韓国では文在寅(ムン・ジェイン)大統領の任期が22年5月に満了。3月には大統領選が予定されている。膠着状態が続く日韓関係は、リーダーの顔ぶれが変わることで変化するのか。登場した識者の多くは、日韓の政権が変わることで関係が「劇的に」改善されることはないが、関係改善に向けた条件作りにはプラスに働く可能性があるとみている。

  • 日韓の往来はコロナ禍で激減。写真はコロナ禍前のソウル中心部・明洞(ミョンドン)の様子
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「日韓両国の基盤となる相互信頼が底をついている状態」

   日韓の懸案でクローズアップされることが多いのは、15年12月の慰安婦合意や18年10月に韓国大法院(最高裁)が日本企業に対して元徴用工らへの賠償を命じる判決を下した問題だ。

   ただ、日韓未来対話に出席した申?秀(シン・ガクス)元駐日大使は、それより前の12年8月に李明博(イ・ミョンバク)大統領が島根県の竹島への上陸を強行したことで日韓関係が大幅に悪化したとみている。申氏は、22年で「失われた10年」を迎えることになり、「日韓関係は10年間ずっと下り坂を歩んできたと思う。日韓両国の基盤となる相互信頼が底をついている状態」だと指摘。リーダーの顔ぶれが変わらないと事態改善は望めないとの立場で、今後の展開について「日韓間で新しい政権が発足して、リセットできるいいチャンスを迎えたと思う」とした。

   その理由として、

「今、日韓関係の妨げになっている最も大きな要素は、過去の歴史問題だ。これを解決するためには大きな政治的な意志が必要。それを期待しづらい状況」

だと説明。文氏の任期が満了する22年5月が「リセットの機会」だとした。

「それまでは日韓関係はこれ以上悪化しないように管理して、またリセットの機会が来た時にもっと力強く回復できる環境作りのために日韓両国が共に努力すべきだと思う」

   元徴用工による訴訟では、原告が差し押さえた日本企業の資産を売却し、現金化するプロセスが進みつつある。申氏は、この問題への対応が、日韓関係を悪化させないために「最も重要」だとして、問題解決を次の政権に委ねるための時間稼ぎが必要だとの見方を示した。

「(第三者が代わりに賠償金を原告に支払う)第三者代位弁済という方法を使って、いったんそれ(現金化)を防いで、具体的な解決策に進む道を模索すべき」

衆院選、参院選乗り切って「岸田カラー」が出れば...

   日本側からも、政権が変わることで少しずつ事態改善につながる可能性に期待する声が出た。次のような声だ。

「私の全く個人的な感想だが、岸田新総理は、前総理、元総理に比べれば、韓国に対して慎重な言動・発言そしてより柔らかいメッセージの発出に務めるのではないかと考えている。それが本質的な懸案の解決に結びつくのかというと、必ずしもそうではないと言えるが、まずはやはり雰囲気を少し変えていくということが、今行き詰まっている関係の改善に少しでも役立つ」(慶應義塾大学・西野純也教授)
「(日韓問題は)構造的な問題なので、政権トップが変わったからといって劇的な改善が見込めるということではないのだろうと思う。そうは言いながらも、やはり安倍・菅(政権)と続いたこの流れから見ると、岸田政権というのは、もちろん安倍さんの影響のもとで政権が誕生しているので、動ける範囲は限られているかもしれないが、総選挙、それから来年夏の参議院選挙をうまく乗り切れば、岸田政権も少しずつ『岸田カラー』というものが出せる条件が整ってくる、という風な見方もできるのではないか」(静岡県立大学大学院・奥薗秀樹教授)

   このように、新政権への期待が語られる一方で、文氏の任期中に問題解決のための道筋をつけるように求める声が相次いだ。

   そのカギになるのが、1月18日に開かれた文氏の新年記者会見での発言だ。元慰安婦らによる訴訟で、ソウル中央地裁が1月8日、日本政府に賠償を命じる判決が出た。文氏は、判決について「正直少し困惑している」とした上で、15年末の慰安婦合意について「両国政府間の公式の合意」だとする認識を示している。元徴用工訴訟の問題には次のように懸念を示していた。

「強制執行の方式で現金化されて判決が実現される方式は韓日両国間の関係において好ましいとは思わない。その段階になる前に両国間の外交的な解決策を見いだすのが優先だ。外交的解決策は原告が同意する必要がある。原告が同意できる方法を両国政府が協議し、韓国政府がその案をもって原告を最大限説得し、問題を少しずつ解決できると考えている」

   なお、ソウル中央地裁では4月21日には元慰安婦の賠償請求を却下する判決、6月7日には元徴用工の賠償請求を却下する判決が出ている。文氏の新年会見後に、慰安婦問題、元徴用工問題ともに、以前とは逆の判決が出ていることになる。

文在寅大統領は「対日関係を破綻させた大統領」として終わってしまうのか

   奥薗氏は、こういった状況を

「文在寅大統領の動ける『可動域』が広がっているというふうに見ることもできると思う」

とみており、事態収拾への期待感を示した。

「韓国側も、文在寅大統領が、ある意味『対日関係を破綻させた大統領』として終わってしまうのを何とか防ぎたい、あるいは次の政権に負の遺産を残したくない、という想いも当然あると思う。そういう意味では、司法判断が割れているということは、逆に言うと文在寅政権が退任するまでの間に政治決断を下す余地というのも出てきている、という見方もできる」

   西野氏は

「少なくとも3月大統領選後、すぐに本格的な関係改善に臨めるような環境を作っていく必要があると思う」

と指摘。新年記者会見での発言に沿う形で韓国側が努力することを日本政府は期待しているとして、発言を「大切にしていただきたい」とした。

   別の韓国側の識者からは、仮に文在寅政権での関係改善が無理であっても、次の政権で努力を続けるべきとの声が出た。ソウル大学の朴喆熙(バク・チョルフイ)教授は、日韓関係に対する現状の両政府の立場は「戦略的放置」だと表現。その上で現状を「戦略的な関与」に転換すべきだとした。

「努力をすると言いながら、何ら具体的な方策を取っていない。現状維持はできても関係改善にはつながらない。日韓関係が積極的に問題解決をして、関係改善をしようとする戦略的な関与へと転換する必要がある。例えば今の韓国の政権の任期内で、もしダメであれば、次の政権下で日本への戦略的関与に向けた努力をすべきだ」

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

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