日本最大級をうたう動画配信サイト「ニコニコ動画」(ニコ動)で、新型コロナウイルスやワクチンをめぐる不確かな言説が広まっている。
「ユーチューブ」で削除された動画を転載する"ロンダリング(洗浄)"も散見され、利用者からは対策を求める声が上がっている。
ファイザーがワクチン接種に警鐘?
「コロナは茶番」「コロナの真実」「ただの風邪」「ワクチン危険」「副作用」「打つな」「死亡」「やばい」――。
ニコ動の検索欄に2021年9月30日、「コロナ」「ワクチン」と入力すると、コロナ軽視やワクチン忌避につながるような候補が上位に表示された。
9月の動画ランキング(「社会・政治・時事」のカテゴリー)は、10本中4本がコロナ関連で占め、いずれも扇情的な主張が目立つ。
「ファイザーからの警告! コロナワクチン最大のデメリット」と題した動画では、英語で記されたファイザー社の治験手順書を元に(1)ワクチン接種者は強力な感染源となる(2)妊娠中にワクチン接種者と接触すると流産の恐れがある――と喧伝している。
動画は5万回以上再生され、一時はランキング1位にもなった。しかし、ファイザーの広報担当者はJ-CASTニュースの取材に「治験時における有害事象や重篤な有害事象が発生した際の治験参加医療機関からの報告基準を記載したもの」だとして、動画の内容を「誤った解釈」と否定した。
動画の説明欄によれば、はじめはユーチューブに投稿していたものの、削除されたため第三者が転載したという。
「ランキング1位に反ワクチンはまずい」
いわゆる「反ワクチン本」の著書で知られる医師は8月下旬、ユーチューブに投稿していた動画がポリシー違反で相次いで削除されたとして、ニコ動に軸足を移すとSNS「GETTR(ゲッター)」で表明した。
この医師はツイッターアカウントも凍結されている。「(各プラットフォームの規制に)対抗するため、ニコニコ動画さんにお世話になることにいたしました。他では語れないコアな内容、やばい話などを皆さんと共有したいと思います」とニコ動で呼びかけている。
また、反ワクチン論を唱える著名漫画家は9月上旬、ユーチューブ動画が「誤った医療情報」が含まれているとして削除され、たび重なる違反でチャンネル自体も消されたとブログで明かした。発信はニコ動で続けるとし、ユーチューブで削除された動画を次々に転載している。
こうした現状に、利用者からは対策を求める声も少なくない。ツイッターでは「ランキング1位に反ワクチンはまずいでしょ」「人命に関わることなので厳しく対処してほしい」といった意見が寄せられている。
運営会社の「ドワンゴ」(東京都中央区)に、新型コロナウイルスをめぐるポリシーや誤情報対策などを質したが、回答はなかった。
ニコ動のガイドラインによれば、不適切なコンテンツへの対策に取り組んでいるものの、「ニコニコによる規制は最小限にとどめます」「ニコニコ運営の対応に過度の期待をしないようにしましょう」と明記している。
ユーチューブの具体的な取り組み
ユーチューブは昨年5月、新型コロナの誤情報に関するポリシーを導入した。地域の公衆衛生当局や世界保健機関(WHO)と矛盾する見解などを含む動画を制限し、違反時の措置も明示した。その後、対象をワクチンにも広げた。
今年8月には、2月以降に100万件以上の関連動画を削除したと発表した。最高製品責任者のニール・モーハン氏は、
「『ユーチューブは経済的な利益のために際どいコンテンツを残している』と批判されることもありますが、そうしたコンテンツはあまり見られておらず、音楽やお笑いなどといった人気のコンテンツの視聴回数には全く及びません」
と釈明し、そうした動画は利用者や広告主からの信頼を損なうため、「対策に多大な時間と費用を費やしてきた」とする。
一方で、
「過度な削除へのアプローチは、言論の自由を萎縮させます。削除は鈍器であり、多用することで『物議を醸す主張は受け入れない』というメッセージを送ることになりかねません」
と対応には慎重さが求められるとし、「今後も『言論の自由』と『意見が届く範囲を指定できる自由』のバランスを取るために、製品への投資と革新を続けていきます」とプラットフォーマーとしての社会的責任を果たすとした。
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)