外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(44) タリバン政権のアフガンは再び震源地になるのか

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   アフガニスタンのガニ大統領は2021年8月15日、カタールに脱出し、タリバンが政権を掌握した。国際社会が20年にわたり支援した民主体制はなぜ、潰えたのか。今後再びアフガンは、世界に地殻変動をもたらす震源地になるのか。「ボン合意」などアフガンの民主体制作りに携わった国連の元政務官・川端清隆福岡女学院大特命教授と共に考える。

  •                           (マンガ:山井教雄)
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  •                           (マンガ:山井教雄)

拙速の米軍撤退が招いた混乱

   川端さんにはこの連載の第21回「日本は『グローバル対話』の促進者に」でも登場していただいた。コロナをめぐる連載に、「なぜアフガンを?」と思う方もいらっしゃるかもしれない。これまで見たように、コロナ禍への対応や被害の在りようは国内・国際政治と密接につながっており、それを切り離して論じることは難しい。とりわけアフガニスタンの動向は、今後の国際社会の連携や協力体制を揺るがす可能性があり、ここできちんと取り上げるべきだと考えた。

   論点は二つある。

(1)アフガンの崩壊は、9・11同時多発テロ以来、米国が主導してきた「対テロ戦争」の失敗を意味するのか。それは、国際社会にどのような影響を及ぼすのか。
(2)タリバンは、9・11事件以前のように、アルカイダなどイスラム原理主義の過激派テロ組織に「根拠地」を提供するのか。それを阻止するには、どうしたらよいのか。

   8月31日、福岡在住の川端さんにZoomでインタビューをして、この二つの論点を中心に話をうかがった。

   ここで事実関係をおさらいしておこう。

   今回の米軍撤退の発端はトランプ前政権が2018年7月、タリバンとの直接対話を始め、20年2月に米軍の段階的撤退を進めることで両者が合意したことだ。

   バイデン米大統領は21年4月、アフガン戦争のきっかけになった米同時多発テロから20年になる今年9月11日を、駐留米軍の完全撤退の期限にすると表明した。バイデン政権は5月から撤収作業を本格化させ、その後さらに計画を前倒しにして、8月末までの撤退を打ち出した。

   こうした米軍の撤収で空いた穴を埋める形でタリバンは5月以降、農村部を攻撃して拠点を掌握。やがて国境検問所や物流拠点を占拠し、8月には一斉に各州都を陥落させて支配下に収めた。15日には「治安維持」名目にカブールを包囲し、大統領府を占拠した。

   タリバンの猛攻と政権のあっけない崩壊は、アフガンに混乱をもたらした。首都カブールの国際空港には、大使館員や政権に協力したアフガン人やその家族ばかりでなく、タリバンによる抑圧を恐れて米軍機への同乗を求める数千人の民衆が殺到した。米兵に幼児を渡して助けを乞う人や、米軍機にしがみついて墜落死する人の映像が流れるなど、その場の混乱は酸鼻をきわめた。

   その後もバイデン政権の対応は迷走した。

   バイデン大統領は政権崩壊後の16日、「米国はアフガニスタン人自身が戦う意思がない戦争を戦うべきではない」と突き放し、撤退を正当化した。だが国内外の批判が高まった18日には「もし米国人が残っていれば、我々は全員を退避させるために留まる」と撤退の延長を示唆した。もちろんタリバン側は延長を受け入れず、混乱はなおも続いた。米軍は空港内での作業を続けたが、カブール市内から空港までの陸路や空港ゲートの検問はタリバン側が担っており、関係者が空港にまでたどり着くことは至難だった。そこへ26日、空港周辺で自爆テロが起き、米兵13人を含む200人近くの人が犠牲になった。犯行声明を出したのは、タリバンと対立する過激派組織「イスラム国(IS)」の支部組織だった。

   米軍は27日、東部ナンガハル州などで支部メンバーをドローンで空爆し、殺害したが、その空爆で一般の市民が巻き添えになったと報じられるなど、反撃は混乱に拍車を欠ける結果に終わった。

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