自民党総裁選(2021年9月17日告示、29日投開票)では、16日夕に野田聖子幹事長代行が正式に出馬表明し、岸田文雄前政調会長、高市早苗前総務相、河野太郎行政改革相との4者による構図が固まった。
これまでは派閥の力学に左右されることが多かった総裁選だが、今回は党内7派閥のうち岸田派(46人)以外の6派閥が事実上の自主投票で臨む見通しになった。若手議員の中には「選挙の顔」としてふさわしい総裁を選ばなければ再選が危ういとの危機感もあり、派閥の意向に加えて世論の動向もうかがいながら投票先を判断することになりそうだ。世論の支持が高い石破茂元幹事長が不出馬を表明して河野氏の支持を表明したことで、党員票の面では河野氏が有利になったが、野田氏の出馬が確定したことで、各候補の票が分散することになりそうだ。そうなれば、1回の投票で過半数を得票する候補が現れず、国会議員票が重視される決選投票にもつれ込む可能性がある。その場合は河野氏以外の候補者に有利に働くとみられ、情勢は流動的だ。
衆院議員の半数近くが「魔の3回生」以降の世代
総裁選では、国会議員票383と党員・党友票383の、合計766票を競う。1回目の投票で過半数(384票)を得た候補がいなければ、上位2人による決選投票が行われる。決選投票は国会議員票383のままだが、党員・党友票は都道府県ごとに1票の計47票になり、党員・党友票のウエートが下がる仕組みだ。
大きく影響することになりそうなのが世論の動向だ。朝日新聞が9月11、12日に行った世論調査では、新総裁に誰がふさわしいか尋ねる質問に対して、自民支持層のうち42%が河野氏と回答。岸田氏19%、石破氏13%、高市氏12%、野田氏1%と続いた。日本経済新聞社とテレビ東京が9~11日に行った調査では、自民支持層の場合で、河野氏31%、岸田氏17%、石破氏13%、高市氏12%、野田氏1%と、大筋で同様の結果が出ている。必ずしも「自民支持層=党員」ではないが、石破氏が河野氏の支援に回ったことを踏まえると、それでも党員票では河野氏が優勢だと言えそうだ。
では、国会議員はどうか。自民党衆院議員のうち、46%を1~3回生が占める。自民党が政権に返り咲いた12年12月の衆院選で初当選し、不祥事が多いことで知られる「魔の3回生」以降の世代で、比較的自民党に順風だった選挙しか経験したことがない。この世代にとっては初めて逆風の中で迎える選挙で、世論受けする「党の顔」を求める傾向が強い。
「自主投票だと言われているが、水面下の動きを見れば...」
ただ、「自主投票」をうたう中でも、派閥の意向も無視できない。最大派閥の細田派(96人)は岸田氏か高市氏の支持を決めている。安倍晋三前首相は高市氏を支持。SNSで高市氏を応援する議員の書き込みを拡散するなど、「空中戦」でも支援している。河野氏が所属する第2派閥の麻生派(53人)は、河野氏か岸田氏を支持するが、所属議員の投票は拘束しない方針。高市氏への投票も容認する姿勢だ。無派閥の小泉進次郎環境相は河野氏支持を表明しており、9月16日に開かれた「河野太郎の総裁選必勝を期す会」には石破氏と一緒に出席した。小泉氏は、この「必勝を期す会」のあいさつで、
「派閥の行動は自主投票だと言われているが、水面下の動きを見れば、全くそんなことはない」
と発言。「自主投票」を掲げる派閥の中でも、河野氏を支持するメンバーに対する引きはがし工作が行われているとの見方を示した。
党員票の影響が大きい1回目の投票は河野氏にとって有利だが、決選投票では、岸田氏に比べて派閥としての支援が少ない河野氏には不利な局面になる可能性がある。野田氏の出馬が確定したことで、票が分散して決選投票にもつれ込む可能性が高まったことになる。
出馬正式表明は90秒の「ぶら下がり」取材
野田氏は9月16日夕に自民党本部で取材に応じ、出馬理由を次のように述べた。
「各候補者のさまざまな政策、大変素晴らしいものばかりだが、私が政治家として取り組んできている、小さき者、弱き者、その人たちを奮い立たせるような政策が、なかなか見つけ出すことができなかった。それから、日本が求められているのは多様性。人口減少とか高齢化の中で、次の日本を作るために、これまで主役になれなかった女性、子ども、高齢者、障害者が、しっかりとこの社会の中で生きていける、そして生きる価値があるんだという、そういう保守の政治を自民党の中で作り上げていきたい」
野田氏は約1分30秒にわたって「ぶら下がり取材」の形式で取材に応じた。具体的な政策は17日の告示日以降に明らかにするとしている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)