「重機を唐揚げに」シュールなガチャなぜ人気? ロングセラーの裏にあった「トレンドを追わない」姿勢

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   クレーン車やダンブカーなどの重機を揚げ物に!――こんなシュールなコンセプトのカプセルトイをご存じだろうか。ガチャブランド「パンダの穴」から2014年に発売された「唐揚げ工務店」というシリーズだ。SNS上の投稿をきっかけに2021年の今、再び大きな注目を集めている。

   同シリーズの種類は、ユンボ揚げ・ダンプ揚げ・ローダー揚げ・ミキサー揚げ・クレーン揚げの5種類に、シークレットが1種類。手のひらに収まる小さな重機がおいしそうに揚げられている、というシチュエーションをガチャ化した。少し衣が剥げたところからは、ショベルなど元の重機がにじみ出ている。

   現実離れした自由な発想はいかにして生まれたのか。J-CASTニュースの取材に「トレンドを追わない」というこだわりを明かすのは、「パンダの穴」のクリエイター。人気作の開発背景を詳しく聞いた。

「商品化に関わった人達の心境がとにかく気になります」

   「唐揚げ工務店」がツイッターで脚光を浴びたのは2021年8月中旬。偶然見かけた人が写真つきで紹介すると、6万5000以上の「いいね」がつく(30日現在)など大きな注目が集まった。「なんともシュールだ」「な ぜ 揚 げ た」「スゴイ!クオリティーですね」など、重機を揚げるという発想もさることながら、衣の質感など完成度の高さに驚く声もあがった。紹介したユーザーは取材に対し、「発想が斬新というか、ぶっ飛んでるなと思いました。これを考えた人含め商品化に関わった人達の心境がとにかく気になります」と述べる。

   「唐揚げ工務店」の企画(原案)・デザインを手掛けた広告制作会社・電通テックのアートディレクター・伊藤真也さんに当時の心境を尋ねると、「7年前の商品なのに」と驚きつつも、こう話す。

「このガチャも他のガチャもそうですけれども、きっと制作する本人たちは『変なもの』を作っているという自覚はあまりないような気がします。大真面目に作っていました。その真面目さが成果物になった時に、いい違和感になっているのかもしれません。
僕は広告の仕事をする上で、人々が反応するような表現や企画を追求してきました。この部署では常に人や社会がどう反応するかを軸に物事を考えているので、よくよく考えると変な人たちが集まっていますね(笑)」

   唐揚げ工務店は「パンダの穴」というガチャブランドから発売された。このブランドは、2013年に玩具メーカーのタカラトミーアーツと電通テックがコラボして立ち上げたもので、「何だコレは?」と思われるような独特な商品を開発し続けている。

   同ブランドから最初に発売されたのが、ホホジロザメやシュモクザメなど様々なサメを揚げ物にしたというコンセプトの「サメフライ」のガチャ。実は、これの続編として作られたのが「唐揚げ工務店」なのだという。

人気作「サメフライ」「唐揚げ工務店」の開発秘話

   「サメフライ」の企画(原案)・デザインを手掛けたのも、唐揚げ工務店を生み出した伊藤さんだ。「パンダの穴」を立ち上げる2年ほど前、別の企画を練っている際にメモしていたのが「サメフライ」の構想だったという。

「全く別の仕事で長めの打ち合わせをしていた時に、企画の絵を描いたり手遊びしたりする中で、何となく描いたのがサメフライの原案だったんです。頭の中が変な方向に進んでなんとなく落書きしたものではありますが、『パンダの穴』を立ち上げる際にタカラトミーアーツさんにプレゼンしたら気に入っていただき、商品化する運びとなりました」

   サメフライはインターネット上を中心に大きな注目を集め、大ヒット。そこで、引き続き「揚げ物」に関連したシリーズを作ることになった。そうして生まれたのが唐揚げ工務店だが、当初は違うものを連想していたそうだ。

「揚げ物を連想していったときにまず頭に浮かんだのは『豚カツ』でした。
そして、何気なく昔から好きだった重機を揚げてみたら面白そうかなと考え、ラフ画を書き始めてみました。重機から、重量の単位である『t(トン)』をかけた『カツ』です。だから仮名称は『tカツ』だったんです」

   電通テックのクリエイターが考えた企画は、タカラトミーアーツによって立体物に仕上げられる。

   揚げる前の「重機」の再現度も高い。「唐揚げ工務店」制作にあたって、タカラトミーアーツはまず、重機の専門家を招きリアルな重機のフィギュアを制作した。伊藤さんから見れば「このままガチャにした方が良いんじゃないか」と感じるほどだったそう。

   続いてこれらの試作品に、どのように「衣」をつけるべきか考えた。揚げ物としてのリアリティを追求するために様々な店の食用の揚げ物も用意し、イメージを膨らませていったという。唐揚げ工務店については、色味や衣の見た目のバランスから、「高めのカツ屋さんの揚げたてのもの」を参考にしたそうだ。

「ものすごく精巧に作られた重機のフィギュアを台無しにするような作業でした(笑)
拘った点は美味しそうに見えるか、何の重機を揚げているかを分かってもらえるかですね。カプセルに入るサイズの制限もあるので、小さな世界の中で、重機のち密さと揚げものの美味しそうな雰囲気のバランスが両立するものをめざしました」

   最終的に試作品が出来上がってみると、トンカツよりも唐揚げらしくなってしまったため、発売直前になって「唐揚げ工務店」と名を改めたそうだ。

   こうして出来上がった唐揚げ工務店やサメフライはインターネット上を中心に長らく愛されている。7年以上にわたり「面白さ」が色あせないのは、その開発姿勢にも理由がありそうだ。

マーケティングを実施せず、トレンドを追わない姿勢

   「パンダの穴」の総合統括を務める、電通テックのクリエーティブディレクター ・飯田雅実さんによると、「パンダの穴」では、マーケティングを実施せず、トレンドを追わないことを心掛けている。開発時には、それぞれのクリエイターが考えた「面白いもの」を引き出すようにしているという。

「広告業界ではマスを対象としているので、日々の業務では、考えた企画にどれくらい多くの人々が反応するかを考えています。ですから自分たちが面白いなと感じたことは、だいたい何百万人もしくは何十万人の人が反応するだろうなという感覚があります。
こうした経験を活かし、ガチャ業界ではあえてマーケティングを行わないと決めました。自分たちのセンスや経験を大切にし、取り組みたいと考えています」

   飯田さんによると、パンダの穴の商品は、1年に1回開催するタカラトミーアーツとの合同プレゼン大会で決定している。そのためにトレンドを追いかけていては、商品化した時には廃れている可能性もある。一方で、こうしたスタンスだからこそ唐揚げ工務店のような長年にわたり愛される商品が生み出せたのではないかと振り返る。

   またガチャの開発は、クリエイターたちにとってもいい経験になると意気込む。

「『パンダの穴』を立ち上げた当時は、ガチャメーカーは15社ほどだったと思いますが、広告業界では誰も足を踏み入れていなかったので、目の前にフロンティアが広がっていると思いました。
『パンダの穴』では、『何かを感じる』といった言語化できない面白さを大切にしています。これは広告だとなかなか許されないことで、広告業界ではプレゼンの時に、どんな表現でも言語化し、説明することが求められます。一方でガチャの企画は、面白ければ商品になる可能性が高いので、クリエイターにとってもいい経験になると思います」

   「パンダの穴」は現在も、新作を作り続けている。唐揚げ工務店を手掛けた伊藤さんは、最後にこう述べた。

「新作に関しては、お伝えできませんが、やはり本気で変なことを考えているので、また反応してくださる方がいると、なによりです」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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