次の首相に求められるのはどんな能力・政策なのか。
国内では新型コロナ対応、国外では対中脅威、アフガンなどで安全保障対応が求められた。いずれも有事対応の典型例である。
菅義偉政権では、既存の枠組みでの対応をせざるを得なかった。しかし、新型コロナウイルス対策について、その割にはパフォーマンスはいい。
私権制限は他の先進国と比べて極めて不十分
百万人あたりの累積感染者数を見ると、G7ではトップ、G20でも4位だ。百万人あたりの累積死者数でもやはり同じだ。それでも、日本として必ずしも満点の対応でなかった。
例えば、欧米では当たり前である罰則を伴う行動制限(ロックダウン)について、日本では憲法の関係でできない。つまり、一般人への罰則を伴う行動制限は、憲法上で規定されている移動の自由との兼ね合いで、公共の福祉で読み込むのは無理があり、憲法上に非常事態条項のような、非常時には私権制限できるとの規定が必要だ。
しばしば憲法改正したくない人々は、公共の福祉で憲法改正不要と言うが、その立場では、民主党政権時代に制定された新型インフルエンザ特措法程度の私権制限しか出来ない。今の新型コロナ対策は、基本的にはその新型インフルエンザ特措法の改正法に基づくので、私権制限は他の先進国と比べて極めて不十分だ。
また、今回のアフガニスタンへの自衛隊派遣については、自衛隊法84条の4(在外邦人輸送)と第84条の3(在外邦人等保護措置)に基づくものだが、要件として、前者では安全なところ、後者では(1)当該地域が安全なこと、(2)相手国の同意、(3)相手国と当方との連携、が求められている。これらの要件は、今のアフガニスタンでは満たしていないのは明らかだ。
それでもカブール空港に自衛隊機を派遣したのは、超法規的な措置で菅政権として立派なものだ。しかし、自衛隊法が不備なのは、自衛隊を軍隊と位置付けられず、国際法とは異なり、国内行政機関並みにポジティブリスト方式とせざるを得ないからだ。これでは邦人救出には無理があった。
目先の話でなく、骨太の議論を
いずれにしても、これらの既存制度では、新型コロナやアフガンの邦人救出などの有事対応ができない、日本の憲法の欠陥が露呈した。
幸いなことに新型コロナは収まりつつある。死亡率の高かった高齢者ではかなりの程度ワクチン接種が行われており、第5波において、日本の新規感染者数は過去最高だったにもかかわらず、死者数はそうでなかった。第5波における感染者に対する死亡率は0.2%程度であり、第4波以前の1.8%程度より格段に低い。ワクチン接種が進み、1.2万人程度の命を救えた。
また、最近の死亡率0.2%程度は、インフルエンザの死亡率0.1%程度に近づいている。
この際、自民党総裁選では、目先の話ではなく、憲法での有事対応という国家の基本について骨太の議論を是非展開してほしい。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。